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勝手に目利き
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HOOT
HOOT
【理論社】
カール・ハイアセン
定価 1,449円(税込)
2003/4
ISBN-4652077270
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  大場 利子
  評価:B
   「カウボーイの故郷、モンタナから来ました」と自己紹介してしまったばかりに、「カウガール」なんて呼ばれるようになったロイは、中学の転校生。スクールバスのガラスのむこうに、裸足で走る不思議な少年に気付いて、追いかけるが……。
 ほとんどの漢字にふりがなが。親切だ。幼い頃に、この物語に出会えば、本を読む喜びを発見出来るかもしれない。ロイみたいに勇気があって優しくて賢い子供になろうと努めるかもしれない。学校一の乱暴者ダナをやり込める場面は、特に学校生活に役立ちそうだ。やっぱり、そうでなきゃ。と思う反面、ロイのような姿勢を自分に求められたらイヤだろう。大人は何も分かっていないと思うだろう。
●この本のつまずき→『全米書店員が選んだ「いちばんお気に入りの本」』だそう。「いちばん笑った本」「いちばん怒った本」とかありますか。

 
  小田嶋 永
  評価:B
   「その日、ロイが不思議な少年に気づいたのは、いってみればダナ・マザーソンのおかげだった。」この最初の1行で、もうこの「不思議な少年」が読者は気になりだす。スクールバスを追い越し、走り去ってしまうのを、ロイと共に追いかけたくなる。そして、もう一つの事件、パンケーキハウスの建設予定地で起こる珍妙なできごとをめぐるユーモラスなミステリ。学校、いじめっ子または乱暴者、親にも言えない秘密、そして大人たちへのささやか反乱。ユニークなキャラクターたち(最高なのは、自転車のタイヤをかじってパンクさせてしまう女の子!)、やさしい言葉と軽快な文章(訳のうまさか)で、読ませる。「姪や甥に安心して手渡せる本」という作者の意図をくんで、本訳もほとんどの漢字にルビがつけられる。ぼくたちは、たまにはこういう優しい本で物語を読む楽しさを恢復したいものである。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   いかにもアメリカ人が好みそうな、最後に必ず、正義と愛は勝つ勧善懲悪だし、バカな奴らの痛めつけられ方も悲惨と言うより滑稽で、程良く笑える。良くも悪しくも「安心して子供に手渡せる」本でしょう。でも、「母親と父親は今でも一番の友人であり、一緒にいるのも楽しかった。」「エバーハート家は一つのチームで、かたい絆で結ばれている」なんて、そんな出来た子供や親がいるんだ!でなければベアトリスやダナ・マザーソンの家庭のようなグロテスクな母親と無力な父親の崩壊家庭と、対比が極端過ぎるのが幼稚な感じ。親であると言うだけで存在を疎まれ、無視され、拒絶され、踏み台にされるのはフツーだと思っていた私には、エバーハート家親子関係は絵に描いたような出来過ぎで白けた。筆者のフロリダの自然に対する愛着が生みだしたとも言える、謎の自然児、裸足の少年は魅力的!彼の孤独な闘い方は、正統なるハックルベリーフィンの系譜。法を盾に取り、みんなの支持を作り上げる闘いに盛り上げていったロイのよい子ぶりより、法の処罰に触れる闘いも辞さない彼の悪ガキぶりをもっと見たかった。

 
  松本 かおり
  評価:A
   まず装丁が愛らしいっ!表紙の真ん中におっきなお目々。「コレナニ?」と読み進んでみれば、なんと重要脇役(主役?)はアナホリフクロウ!彼らのぐりぐりした瞳、愛嬌あるしぐさにユーモラスなデザインがぴったりだ。
 ひとりっ子ヒーロー・ロイ君の登場も新鮮。我がままだのジコチューだの甘ったれだの、偏見に満ちたワンパターンのひとりっ子像には飽きた。モンタナからの転校生・ロイは、いじめっ子にパンチをお見舞いし、熊女とは度胸一発、正攻法の話し合い対決。一方で、自分の真新しい靴を裸足で走る少年にプレゼントする優しさもある。たったひとりの子供ゆえ、自分にもしものことがあれば親が悲しむ、と自分を抑え、しかもそれを「ひとりっ子としての重要な義務」とサラリと言う。芯が強い少年なのだ。
 レストラン建設用地に暮らすフクロウ家族を救おう!と仲間達と奔走するうちに、ロイは視野をどんどん広げ、フロリダに解けこんでいく。終盤に見せ場連続、エピローグまで目が離せない。そして、彼の確かな成長をうかがわせる爽やかな結末に、思わず微笑んでしまうのだ。

 
  山内 克也
  評価:B
   大型施設の建設で、スナフクロウの巣が埋没するのを阻止しようとする、少年たちの「子どもっぽい」抗議運動が微笑ましかった。一応、子ども向けに作られた本と思うが、建設の際に必要な環境アセスの法的な話をきっちり書いていて、分かりやすい。全体的にミステリタッチで構成されていて、大人でもぐいぐい話に引き込まれる。
 アメリカを舞台にしているが、かの国にありがちな独善的な正義感をゴリゴリ押し通すのではなく、フクロウを守る少年たちをはじめ、建設に携わる人など、それぞれの登場人物の立場に沿って描かれ、複眼的なストーリー仕立てになっている。体は小さいが負けん気の強い主人公、いつも裸足で駆ける少年といったキャラクターも魅力的。「児童向け」と侮ってはいないけど、「拾いものをした」と思わせた一冊。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   ある日、転校生のロイは、裸足で走る不思議な少年を見かける。興味を持ったロイは、捜索を始めた。次第に解き明かされていく謎。少年の正体を知ったロイは、HOOTをめぐる勇気ある闘争に参戦することになる。
 純朴な中学生ロイ、ちょっとぬけてるけど。気の強い少女、腕っ節も相当強い。裸足で走る謎の少年、お決まりのいじめっこ。キュートでナイスなキャラクターがたのしい、コメディタッチの痛快な冒険小説だ。
 感動のラストまで、少年たちは走り続ける。テンポの良い会話、趣向をこらした展開で、ぐいぐい押しまくる。自然保護を題材にした軽快でハイセンスなストーリーは、物語を単なるドタバタ活劇では終わらせない。
 友情や親子愛、家庭の問題も忘れてはいない。少年少女を魅了する素材をもれなくつめこんだ、ハートウォーミングな物語は、おとなも夢中にさせる逸品である。どっぷりハマること間違いなし、すぐに読みたい一冊だ。