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勝手に目利き
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文庫本班

非国民
非国民
【幻冬舎】
森巣博
定価 1,890円(税込)
2003/4
ISBN-4344003306
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  大場 利子
  評価:B
   この国から逃げたくなりました。今まで、警察官の制服姿が好きで、贔屓にしてきましたが、そういうのは止めました。知らないことを知るということが、こんなにこわいこととは思いませんでした。出来れば知らないままですませたかったです。特に、野方警察署。前を通った時、この非国民めーと叫びました、口の中で。
 警察官に詳しくなりました。「どんな高級クラブでしたたかに飲み喰いしても、しっかりと、きっちりと三千百五十円を支払う」警察官。「パチンコ店聞き込み」と称して、出る台の前に座り続ける警察官。
 バカラにも詳しくなりました。と言いたいところだが、あれだけ詳しく説明されてもよく分からない。ギャンブルの才能皆無だ。
 ●この本のつまずき→「大学に上がるか、自衛隊に入るか、警察官に成るのか、それともヤクザをやるか」の四つの道しかない世田ヶ谷のKO義塾付属高校とは?

 
  小田嶋 永
  評価:B
   同じ、所轄署生活安全課の刑事でも、『新宿鮫』こと鮫島と、本書に登場する悪徳警官(デコスケ)とのなんたる違いか。強烈なキャラクター悪徳警官の芳賀と山折。出世の見込みもなく、チンピラ相手に権力をかざし、聞き込みと称したパチンコ屋・遊技場巡回で利益をむさぼる副業に精を出す。したたかに飲み食いしながら、3150円(消費税込み)の領収書をもらうところがせこい。しかし、さらに巨悪の「非国民」がいるわけだ。パチンコや半合法賭博と警察の利権がらみの話には、僕ら小市民は驚かざるを得ない。新聞沙汰になる不祥事などは、警察権力の腐敗のほんのさわりのようだ。税金を誰のため、なんのために納めているのか、まじめに思わざるをえなくなる。「ハヤク取リ締マリナサイ、ハヤク。」落ちるところまで落ちていく芳賀と山折をたたく「正義」は存在するのか。この作者ならではの緊張感のある「賭博小説」だ。

 
  新冨 麻衣子
  評価:B
   いやー、近くの交番に立ってる警官すら悪者に見えてくるよ。面白さ以前にまずこの本は暗黒街ガイドブックだ。なにせ著者は<世界中の賭場を攻める>男だ。現実味があるよ。
薬物依存者のための施設『ハーフウェイ・ハウス・希望』に入居した良太だが、そこにいたのは元ヤクザの青年スワード、輪姦されたという傷を持つ少女バイク、元ギャンブル狂の鯨、そしてこのハウス独特の治療法を研究するオーストラリアからの美しい留学生メグ、という風変わりな面々。だが自由で優しい雰囲気に満ちた施設に良太はすっかり魅了されていく。そして経営が危ぶまれている施設の運営費を稼ぎ出すため、スワード、バイク、良太の三人が動き始める。
腐りきった警察の構造と、闇のギャンブル世界を徹底的に描いた作品。それに比べると人物の印象が薄い感じだったけど、勢いで読める作品です。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   何?この時代がかったタイトルは?こんな言葉で自由や人権を抑圧し、恫喝していたのは過去のことじゃなかったの?どっこいそれが、過去どころか現在進行中の腐敗構造、ガタガタ日本崩壊の構図をスケルトンにして戯画的なまでにあからさま。「権威をかさに着る者達が更に強力な権威に額づき」、その権力ピラミッドがうま汁を独占して、国民を虚仮にしながら、虚仮威しを振りかざす。もう止めようのないバカの末端、ヤクザ並みにタチが悪い警官二人組の何とも薄汚いオヤジぶりはまるで下品なギャグ漫画並み。だけど、程度の差こそあれうじゃうじゃいるよ。この手の代紋ふりかざしオヤジ。「薬物依存に陥るようなお上の意に反した非国民を救済する義務はない」と言わんばかりの無策の中で、自ら更正を期して共同生活を送る5人の打つ大博打。賭博とかお金には全く縁も知識もなくてその仕組みがよく分からないけど、墜ちきった人たちが助け合う姿が美しく描かれているせいか「今日の快楽は諦め、すべてが許される明日を夢見て苛酷な今日を耐え」て更正した人たちには、大博打に勝ってほしいものだという気にさせる。

 
  松本 かおり
  評価:D
   「非国民」なんていうモノモノしいタイトルから、スケールのでかい重厚シビアな物語を期待したのだけれど、いざ蓋を開けてみれば、全体にお下劣感の漂う軽いノリの賭博小説。何かといえば「ちんぽこがぷるるんるん」だの「まんこ」だの、「ずんどこ」だの「どんどこ」だのの繰り返し。ワンパターンでこれだけしつこいとウンザリもするわな。
 警察権力は腐りきっている、政治家と癒着している、税金を食い散らしているなどなど、イマドキそんなんわかりきってるじゃん?というような話が延々と続く。さらに平造と山折の悪徳警官ふたりの描き方ときたら、いかにも下品な脳みそ筋肉男。「警察官にふさわしくない妻の像」『警視庁の歌』も完全な笑いネタと化しておる。もしや著者は、警察に相当恨みがあるのカモ?
「非国民」5人衆が最後に挑む大勝負も、早々と仕掛けの存在を見せつけられて、せっかくの掛け金億単位の大博打なのにスリル薄くてトホホ。ごちゃごちゃ考えずにノリで読め!って、この本のためにある言葉だわい。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   主人公は『ハーフウェイ・ハウス・希望』に集う、薬物依存からの悔悛を志す、個性的な過去を持つ非国民たち。対抗馬の国民代表は、桜の代紋を振りかざし暴利をむさぼり、賭博に溺れる、正しい警察官たちである。
 更正を目指す正しい非国民は、明日への希望をつなぎ止めるため、腐敗した悪刑事に最後の勝負を挑む。未来を勝ちとるのはどっちだ。裏と裏の激突から目が離せない。
 軽快で躍動感あふれるストーリー展開、コミカルでビビッドな会話、きりきりと胃が痛くなるような賭博の緊張感、ピュアな恋物語、エンターテイメントのすべてが、たっぷりと盛り込まれた傑作である。乱暴な話ではあるが、おもしろければいいのだ。
 それにしても、著者は不良と悪党を描くのが実にうまい。真に迫った悪行の数々は、フィクションだと分かっていても、リアルに感じてしまう。しかし、本当のところどうなのだろうか。わたしは黒だと思うのだが…。