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勝手に目利き
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ストーリーを続けよう
ストーリーを続けよう
【みすず書房 】
ジョン・バース
定価 3,045円(税込)
2003/4
ISBN-4622070308
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  大場 利子
  評価:B
   題名の通り、続けてみるつもりで読み始める。ストーリーを続けようにも、読み進めることがまず出来ず、読み終えてもストーリーを続けるどころの騒ぎではなかった。意味がまるで分からないのである。雰囲気やなんというか物語の強弱のようなものは分かっても、ストーリーを続けていけるほど分かってはいない。だからと言って、おもしろくないわけではない。おもしろい。興味津々だ。ただ、私には、たくさんの試練があり、忍耐が必要だっただけだ。
●この本のつまずき→何と言っても、玖保キリコの装丁・装画。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   おっ、滅びて久しい文学の香り、実験小説っぽい匂い、さすが、みすず書房、出す本が違う。今時ウレ線のアメリカ小説とは全然異種異色、したたかな知的仕掛けが施されてる、一筋縄ではいかない、ちょっと面倒な本だ。大学で文学何とか論のテキストに使われそうな、それ者好み。短編小説集なのに読み飛ばせないこの抵抗感、いや、逆に短編だから急がず焦らず、結果より経過、何度も立ち止まってディテールに目を凝らさないと見えてこない。んん?それって人生そのものかも。男と女がいる。ありふれたような日常が、平凡に繰り返されている。同じように見えて、微妙に違い、複雑に拡大していきながら、死によって閉じる。が、時間そのものは続いていく、果てしなく…。フラクタル理論とか、マンデルブロ集合とかいわれると、理系に弱い当方、小難しくて拒否反応起こしそうだけど、成功したメタファによって決して閉じられることなく続いていくストーリーの世界、巧みなものだと唸らされる。うーん。

 
  松本 かおり
  評価:B
   「マンデルブロ集合」?「フラクタル幾何学」??「このストーリーは決して終わらないであろう。このストーリーは終わる」???のっけから疑問符続出。こりゃだめじゃ、と冒頭36ページの段階で早くも気持ちが萎えかける。ワカラヌワカラヌ、ヨクワカラヌ。突然ゴチックになる文字、ストーリーの中にいつのまにか展開するストーリー。誰が誰に言ってるのか悩む三人称……。 
 しかしっ!投げ出さずに読んでつくづく良かった。というのも本作品、末尾の「訳者解説」が面白い。疑問山積の私を救ったのは、35ページ、カラー図版入りの詳細解説さまであった。まずは全編通読し、本作品の感触をオボロゲながらもつかんだ上でこの解説に取りつくならば、「ほー」「へー」「ふーん」と納得の連発、目の前の霧が晴れること間違いなしっ。 
 と、実は晴れきらない部分もあるけれどもそれは私の頭が文系なためで、ともかくワカラヌだらけだった本書が、この「訳者解説」のおかげで壮大かつ緻密に練り上げられた短編集とワカルのである。解説やあとがきから読む習慣のある方々、本作品に限っては、そいつは邪道と申そう。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   難解な物語だ。訳者が34ページもの解説を付けたくなるほどの難物なのである。表紙は確かにラブリーだ。しかし、騙されてはいけない。中身はまったくもってラブリーではない。マクロからミクロにめまぐるしく動く視点。必要以上に細密で、コマ送りのような文章は、語るではなく、論ずるに近い。
 脇道にそれたかのような文章が、知らぬ間に戻ってくる。何の関係もないと思われるストーリーが、完全につながっている。本文と挿話の境目などない。すべてが本文のストーリーを続けるためのストーリーが、切れ間なく続き、一歩一歩、着実に進んでいく。
 本書の神髄を理解するには、数学的、物理学的な素養が必要だ。少なくともフラクタルの意味を知ることは重要である。その意味を理解したとき、文章と言葉の壮大な遊びに気づき、緻密な計算に舌を巻くこととなる。本文よりもからくりが気になる、おまけ付きお菓子の様な、とぼけた味わいの物語である。