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勝手に目利き
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ラブリー・ボーン
ラブリー・ボーン
【アーティストハウス発行/角川書店発売】
アリス・シーボルド
定価 1,680円(税込)
2003/5
ISBN-404898120X

 
  大場 利子
  評価:C
   天国とはどんなところだろう。何度も想像していたことに、答えてくれる。
 天国にいるのは、14才のリンジー。そのまだ天国に来ていないおばあちゃんが、とてもいい。リムジンを雇って空港からシャンパンをなめながら移動するのが好きで、11才だったリンジーに向かって「絶食しなきゃだめよ。永久に太り過ぎる前に。幼児体型は見苦しいよ。」と言う。リンジーの13才の悲しむ妹には、お化粧を教えてやる。おばあちゃんはおばあちゃんらしさで、リンジーはリンジーらしさで、家の中に光をもたらす。それは本当に素晴らしい光景だった。
 ●この本のつまずき→斉藤由貴の解説。途中で「本編の前にこれを読まないで!」と出てくる。止まれないで読み進めてしまう。止まらないとだめだ。

 
  新冨 麻衣子
  評価:A
   主人公はレイプされ殺された少女、スージー・サーモン。死者が主人公となる物語は決してめずらしくない。かつ、死者が主人公であると、その物語は主人公の都合に合わせて進んでいくことが多い(現世での無念を晴らすとかね)。そういう意味でこの物語は、死者を視点としながらも、ひどく現実的だ。遺体すらたった一部しか見つからないし、自分を殺した犯人も捕まらない。残された家族や友人は、犯人を探し出そうと躍起になったり、哀しみのあまりまわりの人間から心が離れていったりもしてしまう。そんな愛する人々の長い年月を、スーザンはひっそりと見守る。これは、実際に触れあうことが叶わないスーザンから見た、彼女の死をきっかけに人々の間に生まれた絆の物語なのだ。人の死は、決して<存在が消えてしまうこと>ではないと改めて感じさせてくれる、心が温まる一冊です。

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   目の前に確かめた死でさえ、なかなか受け入れ難いものなのに、その遺骸さえ見つからず、疑わしい男を逮捕する証拠もなく、突然愛するものを奪われる理不尽に打ちのめされた家族の物語を殺された少女が語る。犯人を捕まえようとする父の焦りは空転し、母は家を出てしまう。この母は最近見た映画「めぐりあう時間たち」で ジュリアン・ムーアが演じた主婦ローラのイメージ。夫がいくら自分を愛していようが、自分の愛をまだ必要とする子供がいようが、家庭におさまりきれない何かを抱えている。しっかりものの妹は自分を支えてくれるボーイフレンドや勉強を見つけ、まだ幼かった弟も時の中で成長していく。死後1年目殺害現場のトウモロコシ畑に知人達がキャンドルをもって集い、彼女が好きだった歌を歌って悼むのに、「さよなら」を言われ自分が過去の存在になろうとしていると感じる死者の思いは哀切。だが、霊となった自分の存在を感知してくれる芸術的感性豊かな友ルースを通して、初恋の人と思いを遂げるシーンはなくもがなだ。ピュアな振りしてもプアな魂。幽霊の正体見たりって感じ。

 
  松本 かおり
  評価:C
   私がスージーの代わりに拷問して殺してやりたい、ミスター・ハーヴェイ。こういう根性の腐りきった唾棄すべき男に限って、いけしゃあしゃあとしつこく生き残るから始末が悪い。レイプ犠牲者となってしまったスージーの無念さは感じられるけれども、だからこそもっと激しく、恨んで憎んで呪い殺すぐらいだとこっちもスカッとするのに。復讐とか女の執念がテーマではないとはいえ、じりじりイライラさせられる。天国からの「無断外出」も、唐突な感じだ。
 スージーのいる「天国」にも、どうも馴染めない。安全で美しくて、楽しい世界らしいが、死んでまで現世と似たような店やら物やら他人に囲まれて過ごすのか。たとえ行けるとしても、こんな鬱陶しい天国なら私はイヤダね。
 その天国から死者が下界を見下ろして、人の生活の一部始終を観察しているのもなんだかねぇ。親しい人が見守ってくれるだけならまだしも、どこかの変態野郎も覗いてニヤニヤ欲情してるかも。あ〜気持ち悪い。えっ?そういう不届き者は天国ではなく地獄行き?ナルホド。こりゃ失礼いたしました。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   本書は、レイプにあい無惨に殺されてしまった14歳の少女スージーの、天国からの視点で描かれた感動の物語である。
 天国でも気になるのはもっぱら地上のこと。壊れゆく家族、妹の恋の行方、友人たち、そして一度だけキスを交わしたボーイフレンド。残されたものたちの苦悩と新しい暮らし、その過程にスージーは関与できない。ただ見つめるだけである。ありったけの願いをこめて。
 犯人も証拠も知っている。なのに伝えられない。読者は、もどかしい思いにさいなまれる。それは天国のスージーと同じ、ただ見つめることしかできない立場である。共感せずにはいられない、聡明なストーリーなのだ。
 そして再生のエピソードはピュアで瑞瑞しい。その活力は、スージーの無念さを際だたせる。喜び悲しみ、全ての感情がスージーを通してストレートに胸に飛び込んでくる、悲しくせつない物語。なのに、読後はあたたかくやさしい気持ちになれるのであった。