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勝手に目利き
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【文藝春秋】
中野順一
定価 1,500円(税込)
2003/5
ISBN-4163218807

 
  大場 利子
  評価:C
   キャストと呼ばれるキャバクラ嬢。チーフと呼ばれるキャバクラのボーイ。18のテーブル席のキャバクラは中バコ。ボーイのタクトが、キャストからストーカー撃退を依頼され、引き受けたことから、事件が始まる。
「池袋ウエストゲートパーク」の主人公のマコトと、このタクトが似ている。正義感との距離の取り方、刑事と親しくなれること、信頼できて使える友達がいること、クラシックに詳しいこと。名前も。かっこいい男はみんなそうなんだ。
 ストーカー、ドラッグなど分かりやすい題材のおかげで、身近に危機は迫っていることはよく分かった。
 ●この本のつまずき→「ロン毛のチーフがフラワーを告げに来た。」フラワーとは?

 
  新冨 麻衣子
  評価:D
   タクトの働くキャバクラ<クラレンス>のナンバー1ホステス・エリカが何者かに殺された。ストーカーに狙われていたエリカから助けを求められていたタクトは責任を感じ、犯人探しに乗り出す。一方で不思議な力を持つ新人ホステスの花梨に恋をして―。
 クスリ、通り魔、中国マフィアが横行する夜の街を舞台に、スリリングなストーリー展開で一気に読ませる。……だけどねえ、なーんかありがちだなあ、という印象が最初から最後まで続いた。目新しさがないというか。選考委員である浅田次郎氏の「この作者の巧妙さは、自分の資質と現在の実力をよく知っていて、そのキャパシティいっぱいの完成された作品を書こうとしているところ」というコメントに同意。ものは言いようだなあ。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   フーゾクと言えば、金と女、つまりは欲望ギラギラの腐汁が沁み出てくるような描かれ方が多い中で、珍しく爽やか系なところが新鮮だ。主人公は音楽家の両親の願いがこもった、その名もタクトというキャバクラのボーイ、お店のナンバーワンキャストのエリカからストーカー撃退を頼まれる。ストーカーを待ち伏せたり、その後もっとヤバイ局面に飛びこんでいく時でも、あの「人生いけどもいけども薔薇又薔薇」のメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲が頭の中に鳴り響くっていう幸せな男の子。エリカが殺され、警察に疑われ、ボコスコやっつけたはずのストーカー失踪の謎を追っていくうち、気になる新人キャストの花梨ともども、危険に踏み込んでいく。欲望の街に身を置いていても、ヤクには絶対手を出さない、好きな女の子を助ける為にコワイ者知らずで飛びこんでいく、と昔の正義の味方みたいなのが単純だけど好ましい。話を面白くまわすように花梨の瞬間未来予知能力が伏せられているんだろうけれど、如何せん、花梨そのものが可愛いくて不思議な力があるってだけで、お人形みたい、人間的魅力がないのが残念。

 
  松本 かおり
  評価:C
   予言めいたことを口にする、一種の特殊能力を持つ女の子・花梨。彼女がその能力をいったいどう駆使して活躍するのか?と真っ正直に期待したのだけれど、やっぱりそれじゃ平凡すぎるということだろう。花梨の登場は発端にすぎず、話の本筋はまったく別のところに流れているのだ。
 そのヒネリはわかるのだけども、エピソードの終わり方が中途半端なところがあって、気になってしまう。若いタクトが直観勝負で突っ走ることもあって、謎解きとしては物足りない感じ。結末も、ゾンビのように唐突に「思いがけない」人物が蘇る。この人物の伏線が遠すぎて、意外性に驚くよりも、いきさつがわからず当惑してしまった。私の記憶力が悪いだけか?
 花梨はユニークで頭も良さそうなのに、添え物的扱いなのが本当にもったいない。なんせ彼女の切り札は「他人の生殺与奪を思いのままにできるチケット」なのだ。せめて花梨自身の口から、過去の困難や特殊能力者ゆえの苦悩、未来への思いなどをもっと語らせ、人間・花梨の存在感も出して欲しかった。

 
  山内 克也
  評価:D
   最後のサントリーミステリー大賞受賞作品なので、期待を込めて読んだが肩すかしにあった感じ。何故って? 主人公で探偵役のキャバクラボーイの行動があまりにも、うまく行きすぎ。詳しくは書けないが、最後のヤマ場、監禁されたホステスを助けに行く顛末は、後出しジャンケンにも似た設定で、白けきってしまった。
 オビの選考委員の評を読むと、キャバクラの内部実態を詳しく書いたことが、受賞につながっているようにも思えた。東京の猥雑な街を表現するなら、確かにキャバクラの一業種を書き込むのも手法の一つだが、読んでみて雰囲気を味わえたかというとそうでもない。知識は増えたけど…。超能力を持つホステスの人物設定は面白く感じたが、意外と活躍せず、脇役たちの魅力も乏しかった。先行き透明な安定感を持つミステリで、ヒリヒリするスリルは最後まで味わえなかった。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   新宿のキャバクラで働くタクトは、店のNO1キャストのストーカー撃退を買ってでる。首尾よく退治を終え、問題は簡単に解決するはずだった。しかし、その裏に潜む事件に巻き込まれ、マフィアと対峙するはめになる。
 舞台はキャバクラ、主人公はボーイという、いっぷう変わったおもしろい設定の物語である。時代の風俗をたくみに使ったストーリーは、スピード感にあふれ、ぐんぐん引き込まれていく。さらに、不思議な力を持つ女をめぐる謎がミックスされた巧妙な構成もあいまって、片時も目が離せない展開なのだ。
 タクトのまっすぐさもいい。運命よりも愛に賭ける潔さに、ドロップアウトした若者のいじけた暗さは感じない。そして、用意されたラストも粋で爽やかだ。多少くさいけど。
 欲をいえば、もう少し女の色気や、香りがしても良いと思った。もっと臨場感がでるのではないだろうか。それでも読みごたえ十分、合格点のお水系ミステリーの傑作だ。