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約束の地
約束の地
【角川春樹事務所】
平谷美樹
定価 2,205円(税込)
2003/6
ISBN-4758410119

 
  大場 利子
  評価:C
   超能力者たちが、誰にも邪魔されずに生活していける場所、約束の地を求めて、戦う。掲示板《超能力者同盟》に参加していた本当の超能力者を探すことから、物語は始まる。
 なぜ戦うことになるのか、説得力に欠けるが、各々が持つ超能力には十分に惹きつけられた。心が読める人、透視が出来る人、未来が観える人、病気を治せる人。いてもおかしくない超能力者たちの生活には、興味が湧いた。
 ●この本のつまずき→「シールドを張る」SF初心者にはまだ分からないことだらけだ。

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   「約束の地」なんてタイトルからして、建国以来紛争やテロの流血絶えない彼の地を連想させる。いやはや、帯にも「血が血を呼ぶ殺戮のサイキック戦争」とあるように、無差別大量殺戮にエスカレートしていく様が、なんか昔の怪獣映画を思い出させるノリだ。外見からは測りしれない、人間の力を遙かに超えた「超能力」を持つ者達を恐れ、その力を制御あるいは抹殺しようとする人間達が醜くえげつなく描かれているせいか、狙われ、逃げ隠れ、追われる側のサイキック達側に心を寄せたくなるが、彼らは彼らで選民意識を潜在させて鼻持ちならないし、超能力にふさわしい超理性を備えているわけではない。いわば、理性は子供並みの人間が近代科学兵器を振り回してる現実とそう変わらない。危険から身を守り、生き残るために寄り集まり、攻撃を受けるたびにパワーアップし「生きている大量破壊兵器 」になってとどまるところがない、まさにハルマゲドンの世界だ。廃村になった村に帰って住みついている老人達の交流があんなに美しく描かれていたのが、何の救いにもならないのかと思わせるラスト、荒涼寂寞たる虚無感に襲われる。

 
  松本 かおり
  評価:B
   念写、念動力、遠隔透視に瞬間移動などの多彩な能力を持つ、邦明以下5人のサイキックたち。前半で、いろんなサイキックが実力披露してくれて、これはけっこう楽しめる。過激さでは泰男が一番。何でも飛ばしちゃって危ないったらない。暴力探偵・黒崎さえ泣いてチビりまくる凄絶さなのだ。
 邦明たちのさしあたって「約束の地」は、予想外に地味でマトモ。国内で探すんならその程度だよねぇ、と気の毒になるが、そこに近隣の爺さま婆さまたちがわらわらと登場。物語はただのドンパチから、人間の普遍的問題「死に甲斐、生き甲斐」へと深化していく。ここは逃せない読みどころだろう。理想の死に様を見据えて決断を下す、斎田と椿が渋い。
 邦明たちは、世話になった爺婆たちまで激しい戦闘に巻き込みながら、罪悪感ゼロ。圧倒的な超能力を武器に、生きる権利を強硬に主張して傲慢さ丸出し。終盤はダダッ子のようでいただけない。やるだけやったらとっとと彼方の無人島にでも隠遁して、お仲間同士だけで好きに生きてくれ、と言いたい。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   超能力。異能を持って生まれて来たがために、苦悩にさらされる者たちがいた。彼らは、普通の人間との関係に疲れていた。超能力者の助けを求め、さまよっていた。今こそ本物の仲間と共に「約束の地」へ向かうのだ。
 他にも超能力を必要とする者たちがいた。超能力の軍事利用をもくろむ集団である。陸上自衛隊、国家が超能力者の捕獲を画策していたのだ。異能者たちの常軌を超えた戦争が勃発する。人類の未来はどちらの手中に。
 自分たちの持つ支配力に怯え、君臨する者の孤独を恐れて生きる姿は痛々しい。絶対的な力を持つ少数派の計り知れない葛藤、共存を模索する健気な姿を、情感豊かに、緊張感あふれる筆致で描きだしている。
 そして彼らが覚醒し、能力を解放する瞬間、物語は殺戮と崩壊の記録に姿を変える。しかし、その無法な記述には疑問符がつく。少々苦しいし、性急過ぎる。予想を裏切る結末は良し悪しだろう。評価は分かれるところだ。