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北野勇作どうぶつ図鑑
北野勇作どうぶつ図鑑(1〜6)
【ハヤカワ文庫JA】
北野勇作
定価 (各)441円(税込)
2003/4〜2003/6
(1)ISBN-4150307164
(2)ISBN-4150307172
(3)ISBN-4150307180
(4)ISBN-4150307199
(5)ISBN-4150307245
(6)ISBN-4150307253
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  池田 智恵
  評価:A-
   あまりにも装丁がおちゃめなので、家族や友人に手当たり次第見せびらかしました。裏表紙の「小説の品質には十分な注意をはらっておりますが、おもわずほろっとしたり、わけもなくなつかしいきもちになったり、現実がガラガラとくずれていくような気分になっても、責任はおいかねますのでご了承ください」という注意書きが好きで、見るたびにニヤニヤしてしまいます。で、肝心の品質は、「多少ばらつきはあるものの、全体に漂う、さみしげでいながらどこかとぼけた味を持つ雰囲気は上質。この味ははまればクセになるだろう」といったところでしょうか。個人的にカメリという女の子ガメの話がお気に入りです。未来のない世界で、静かに悲観するでも諦観するでもなく生きている様がいじらしくて。そう、未来のない世界なのに閉塞感や過剰な感傷がないところがこの人の味なんでしょうね。西島大介の絵もかわいいです。しかし大塚英志ってほんと才能発掘するのうまいですね。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   四月に早川書房営業部のAさんが来店され、「かつてないユニークな本を出すことになったので、ハヤカワ文庫の棚だけでなく、たくさんの人の目に留まる場所に積んでほしい」と強く推されたのがこのシリーズだ。動物図鑑?SFショートショート?おりがみ付き?内容はよくわからなかったが、Aさんの熱い気持ちは十二分に伝わり、発売前から楽しみにしていた。
 登場するどうぶつたちは、作品によっては必要不可欠なキャラクターであり、作品によっては意表をついた存在だ。いずれにしてもその存在感は尋常ではない。きっと生態や特徴についてのリアルな描写がそうさせるのだ。SF界の動物博士、北野勇作さんしか描くことのできない、どうぶつの不思議な魅力で溢れている。かわいらしさやいじらしさがちょっと微笑ましい。

 
  鈴木 崇子
  評価:B
   不思議なお話ばかり。裏表紙の「注意」にあるよう「現実がガラガラとくずれていくような気分」になりそう。未来から、滅び去った人間の世界を懐古している話、現実と異界が交錯しているような話など。中でも二足歩行型模造亀のカメリの物語が好きだ。ヒトと同じことをしたいと憧れる、けなげなカメリがちょっと哀れでかわいい。
 ふわふわぐるぐる漂うような短編集、SFは苦手だがそれなりに面白く読めた。けれど付録に特製おりがみを付けるというアイディアがなければ、このシリーズ物足りなかったかも。鶴やかぶとばかりではなく、何でも作れる折り紙の奥の深さに脱帽。でも難し過ぎるぞ〜。

 
  高橋 美里
  評価:A
   早川書房から薄い本が出た。見たときはちょっとびっくりしましたが、かなり待ち焦がれていた本だったので、じっくりたのしんで読みました。
 全6巻、短編収録、おりがみ付き。ちなみに、私はおりがみがほんっとに苦手で……。ざりがには挫折しました。
 SFはあんまり読まないのですが、デュアル文庫の「かめくん」で、一度読んでいるので北野勇作さんのSFは「読みやすい」というイメージが強いです。短編、ということで、果たしてどうなるかと思いきや。短くてもしっかりSFです。ちょっとファンタジーっぽくもありますが。1巻の「かめ」に収録されている「カメリ」は他の巻にもシリーズとして作品が収録されています。
 どうぶつシリーズと銘打ってありますが、必ずしもどうぶつが絡む作品ばかりではないのです。かといって、「ひと」はでてきません。「ひと」のようで「ひと」でないものがほとんどです。

 
  中原 紀生
  評価:B
   北野勇作は、なんとも形容のしようがない才能の持ち主だと思う。もちろん、ことさら形容しなくっても読めばそれだけで、シュールで非人情な(だって、動物やら機械やら遺跡やらが主人公なのだから)、そしてどこかに置き忘れ、とうとう置き忘れたことさえ思い出せなくなったモノたちが突然いのちをふきこまれて躍り出てきたような、思わずハッ(ギョッ?)とさせられるその世界の独特のおかしさは、存分に味わうことができる。それはそうなのだけれど、読んでいるうちなんだか居心地が悪くなって、ついできあいの言葉でラベルをはっておきたくさせるのだから、北野勇作の才能はそれほどまでに、折り紙つきに奇妙なものなのだ。──その北野勇作の短編やショートショートを「かめ」の巻、「とんぼ」の巻、といった具合の不思議な方針のもとで編集した「おりがみ付コンパクト文庫」6巻を通読して、たとえば「螺旋階段」という短編(どうしてこれが「かえる」の巻なのだろう)に出てくる文章に思わずハッ(ギョッ?)とさせられた。《映画だってそうだし、演劇だってそうだ、あらゆる表現というものがそうではないか。/それを観る者がいなければ、なにも存在しない。観る者と、観られる者。/あるときには、観る者が観られる者になったり、観られていた者が観る者になったりもするだろう。現実というものだって、そうではないか。そんなふうにしてこの世界全体が、かろうじて存在しているのではないか。》

 
  渡邊 智志
  評価:C
   おりがみに前もって折り目をつけちゃダメです。中心線を1ミリもずれて折り目が入ってしまうくらいなら、文庫におりがみなんか綴じこんじゃダメなのです。おりがみをきっちりと折るのが好きなので、初めから不必要な折り目がついているとがっくりと気落ちし、不良品として交換してもらいたくなるくらいです。試みとして面白いかもしれませんが、珍奇さを狙ったり、ただやってみたかったから、というわがままで実現した装丁だとしたら、入り口で読者の気勢を削いでしまうのですから、邪魔としか思えないです。6冊もあってコレクションできるので、とても嬉しいです。玉石混交、というほどの「玉」の輝きはなかったのですが、思い付きからスタートした話が、なんだかうやむやでへんてこな終わり方をしているのは、小気味良くもありイライラもします。漢字で書ける単語をわざわざカタカナで書くのは、WEB横書き文章が産んだ悪弊で、縦書き書籍には不向きです。