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ドスコイ警備保障
ドスコイ警備保障
【発行アーティストハウス/発売角川書店】
室積光
定価 1,470円(税込)
2003/7
ISBN-4048981285
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  大場 利子
  評価:B
   「これか、ただのデブって」「初めて見た」元力士たちが言う。デブに、ただも何もないと思うが……。万事こんな調子で、心根の悪い人は一切出てこない。出来過ぎと言えば、出来過ぎではあるが、元お相撲さんのガードマンに守られてみたいし、ただのデブがスターに変身するのもいい。デブという言葉がこれほどあたたかく感じられるとは。
●この本のつまずき→人物の最初の登場シーンには必ず名前にルビ。「豪勇」にだけは、なぜだかない。ごうゆうと勝手に読んでいたが。

 
  小田嶋 永
  評価:B
   廃業した力士たちがガードマンの会社をつくった。第二の人生を保証するため、相撲協会理事長・南ノ峰親方のアイデアなのだが、実は親方には叶えずにはいられない思いがあったのだ。この物語、タイトルから予想されるような、元力士たちがなれない仕事へ取り組むドタバタ劇、という安易なユーモアではない。作者が描きたかったのは、仕事への誇りや矜持だ。元力士たちを支援する者も、それぞれの職場でリストラや微妙な立場、不当な扱いを受けているサラリーマンたちだ。元力士たちには、警備の仕事以外にも、そのキャラクターを買われた仕事の依頼が舞い込んでくる。様々な経験をする中で、それぞれが「生き方」を選んでいく。悪い人間は出てこない、人の優しさにあふれた物語だ。「あなたの夢を会社が奪うことを心配しているのよ」会社や上司に期待しちゃいけないんだけれども、こんな言葉をかけてくれれば、いっそう仕事に励めるものなのだ。

 
  新冨 麻衣子
  評価:A
   引退した元力士たちの再就職先として設立された「ドスコイ警備保障」。会社設立をサポートするのは、会社にリストラされたお人好し三人組(ヒデ・チカシ・シンジ)と、その同級生で芸能プロダクション社長の敦子。“2番目の人生”での成功をつかむため、真摯に、そして明るく突き進む彼等の姿に、読んだ後は心に暖かい風が吹いた気分になった。
 この小説のいいところは、そのキャラクターの素直さとテンポの良いストーリー展開だ。今にも悪徳商法にひっかかりそうなお人好し三人組と、義理人情に厚い元力士たち、そして思ったことはつい口に出してしまう<サトラレ>女・敦子というラインナップはともすれば嫌みになりかねないところだが、これまた読むもののツボを突いたストレートなストーリーと上手く相まって、エンタテイメント性の高い作品に仕上がっていると思う。胸がジンとしたり、つい笑っちゃったり、なんだか読んでてほっとする小説である。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   笑わせる、泣かせるツボをよく押さえてる。善人はわりを食うのが当たり前の世の中、こんなにみんな良い人ばかりでうまい方向に動いてくわけないでしょ、マンガじゃあるまいし、と思いつつもジンときちゃうのは何故か?今は廃れて久しい人情という古き良き言葉を思い出させるからかも。廃業した幕下力士たちが食い扶持を稼ぐ就職先確保に作られた警備会社がとんとん拍子に成功する。普通は夢に挫折して、職もなくせば、自分を見失う人が多いだろう。でも大抵は放っておかれる。自助努力の名の下に。又職があっても金があっても、夢もない、満足もない、ろくな人間関係ない人が多い現実から見れば、何というユートピアか。率直に嘘も隠しもなく自分を出して、それで自信と誇りを持って生活していける。支え合って仕事を成功させていく中で、お金というより、「生き方」をつかんでいく。なんて要約するとクサイ話みたいだけど、力士の中に一人混ざったただのデブ松村君とか、ホント笑わせる。如才ない才女のようで、バカな三人組の同級生とつきあってるうちに「ドスコイ警備」の花形経営者になる敦子とか美人でも笑わせるキャラって貴重だよね。

 
  松本 かおり
  評価:B
   南ノ峰親方いわく「私らは相撲をとらなくなったら大飯食らいのただのデブになってしまいます」。それではイカンというわけで、親方の意向を受けて廃業力士たちの就職受け皿誕生。それが大相撲出身者中心に設立された「ドスコイ警備保障」なる警備会社だ。
 元お相撲さんのガードマン、超重量級の体格をフルに生かした期待どおりの活躍ぶりが笑える。拳銃強盗犯だってなんのその。ガシガシッと追い詰めて、150キロと130キロで挟んでぺちゃんこだぁっ!犯人ひらひら〜っ。
 「挫折したとはいえ、やるだけのことはやった人間の爽やかさ」こそ本作品の魅力だ。終盤でひとり心情を語る大東山の「夢を追えた幸福」という一言がジ〜ン……とくる。「ドスコイ」軍団は各々人生を仕切り直し、前進あるのみ。実在の超有名人を彷彿させる顧客が続々登場、国内のみならず海外でも知名度急上昇。「これって話うますぎっ」と苦笑しつつも応援したくなるのだなぁ。

 
  山内 克也
  評価:C
   先日、日本テレビ系列で、張り手を受け失明し相撲部屋を辞めた20歳の青年を追ったドキュメント番組があった。青年は高校3年生で、学校に相撲同好会を立ち上げ、素人部員に対し、実に粘り強く教えるのである。プロにもまれた厳しい稽古は、弱冠20歳の青年にも人間的な成長をもたらすのかと眼を潤ませ見入ってしまった。
 この「ドスコイ警備保障」も、土俵上での活躍の夢を奪われた元力士たちが、厳しい稽古をバネに、新天地の警備会社で頑張る姿を気持ちよく描いている。会社設立後、海外から来たスターの警備に抜擢されるなど、ややスムーズなサクセスストーリーになってしまい緊張感には欠けたが、挫折した夢をどう目標転換して生きていくかの大切なテーマをコミカルに描き、好感を持てた。著者は、前作「都立水商」でも、陽の当たらない職業をやや変わったシチュエーションで描き出していた。読む意欲をかき立てさせる不思議な力量の持ち主だ。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   元横綱は廃業後の力士の就職問題に心を痛めていた。相撲界のため、未来ある若者たちのために用意したのは、警備会社『ドスコイ警備保障』だった。元力士たちの新たなる挑戦が幕を開ける。ついでに、ただのデブも。
 東へ西へ、時には海を越えてハリウッドまで。向かうところ敵なし。縦横無尽に活躍を続ける元力士たちの成長の物語である。そして笑いと涙のドタバタ人情喜劇である。
 お相撲さんの人情物。あまりにもイメージ通りのベタな話だ。義理人情を重んじ、礼儀正しく力持ち、広い心と優しい笑顔。(最近はちょっと違うようだが)そのまんまなのだ。相当笑えるのでかろうじて許されるが、斎藤美奈子なら間違いなく怒りだすであろう。
 しかし、ギャグはいちいち可笑しいし、筋書きもひねりが効いていていい。キャラクターが容易に想像できるだけに、簡単につぼにはまってしまうのだ。「鳥かごフォーメーション」どうです?面白そうじゃないですか?