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勝手に目利き
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ハワイッサー
ハワイッサー
【角川書店】
水野スミレ
定価 998円(税込)
2003/7
ISBN-4048734717
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  大場 利子
  評価:B
   「マニキュアの乾燥には睡眠時間」。家訓として、代々受け継いでよし。
 「コトブキはいつも、夜ふとんにもぐりこんでからマニキュアを塗ることにしている。」週に一度の塗り替えで済むように、三回以上の重ね塗り。完全に乾くまでには一時間以上。うつ伏せの体勢で両腕をバンザイの状態に保ったまま、睡眠。自分もそうだ。間抜けな姿が思い出される。コトブキのように、専業主婦でもなければ、主婦でもないが。
 「時間をむだにすることがきらいだ。それはいつも有効に、有意義に使われなければならず、なにをするにも極力、同時進行でもう一つ物事を処理するように心がけているのである。」自分もそうだ。いや、誰でもそういうもんじゃないのか。なんて、誰でもコトブキのように「ハワイッサー」になれるとは限らない。自分しかり。
●この本のつまずき→一日の経過する時間が小見出し。処理能力の高さに唖然。

 
  新冨 麻衣子
  評価:C
   専業主婦小説……はじめて聞く言葉だな。まあサラリーマン小説とかって言葉があるんだからあってもおかしくはないジャンルだけど。この物語は沖縄に住む専業主婦のコトブキさんの毎日を描いた小説である。毎日元気いっぱいに家事をこなし、PTAでも率先して働き、子供たちを何とか操り、小言の多い旦那の機嫌を取り、浮気相手もいて、順風満帆なコトブキさん。とくに大きな事件が起きるわけでもなく、浮気も単なる生活の一部としてサラッと描かれており、まあ山も谷もない小説である。逆にいえば、山も谷もない日常の描写だけで読ませるっていうのはすごいことだろう。
 しかしですね、「専業主婦って仕事はやりがいがあるし、わたしの毎日って楽しくて幸せだわー」とひたすら訴えかけられても、「ふーん、そうですか」としか答えられないものである。というか、新婚でもないのにあまりにも「わたしって幸せ!」を連呼し過ぎてて、嘘くさく感じてしまうのはわたしだけ?

 
  鈴木 恵美子
  評価:D
   朝の目覚めから「朝日の中にいる(自分たち)母娘の姿は宗教画のように神々しいと一人確信」し、「私ってコマーシャルに出てくるすてきな奥さんって感じ」とハイテンションのコトブキさん。いくら南の島とはいえ、明るすぎる自己肯定精神、満ちあふれる幸福感、充実感、それって反語か逆説じゃなかったら「思いこみ」ですよね?悪利用されるのを警戒して今時の女達が避ける良妻賢母、愛、母性なんて言葉をふんだんにまき散らす恐れ知らずが怖ろしい。でも「私くらいパパを愛してる女は二人といない」といくら胸を張ったって、夫はちっともあなたを必要としてないどころか厄介なお荷物、お目出度いおばかな奴、主婦の仕事も不出来位にしか思ってない。だから、性的に自分を必要としてくれる男、「必要とされることを必要とする自分」を満たしてくれる男を二人も掛け持ちして、夫に褒められようと作って残された手料理は愛人に食べさせればいいかっなんて、はたから見てると「必要」と言うより、生ゴミ処理機的「利用」としか見えないんだけどね。でも思いこみでも自分が幸せだと満足している人に、「ねえ、何かちょっと違うんじゃない?」といったって通じない。「幸せ」ってコワイ。

 
  松本 かおり
  評価:D
   ある専業主婦の、ある1日だけを描いた小説、という点は面白いとは思ったが、登場人物たちが魅力薄でしまいには辟易。たとえば主人公の専業主婦・コトブキは「時間を無駄にすることがきらいだ。それはいつも有効に、有意義に使われなければならず、なにをするにも極力、同時進行でもう一つ物事を処理するよう心がけている」誠にご立派な生活信条の持ち主。
 しかし、100円均一の安物マニキュアを3度も塗り重ね、睡眠中に乾燥を狙うもいきなり失敗、貧乏臭い。風呂に浸かる間も素っ裸で生協カタログや新聞を読み、原稿書きに家計の収支計算。「節水・美容・雑務処理の一挙三得で大満足」なんてのも、結局書類を濡らすわトラブるわで成果薄。見習いたくない。旦那の食べ残しを、平気で浮気相手に食べさせようとする神経も不快。
 忙しさを過剰演出して「頑張る私」にウットリ、自己陶酔ミエミエ。要するに、常に何かしていないと落ち着かないタイプ、モノを深く考えないザツイひとにしか見えないのだなぁ。まぁ本人が「極楽」なら、それでイイッサー。

 
  山内 克也
  評価:C
   午前6時15分から翌日午前1時までのおよそ18時間におよぶ主婦業をドキュメントタッチで描いた、臨場感にあふれる小説だった。それにしても主婦業の1日って、約250ページにも及ぶ「厚み」のある生活をできるのか、と新鮮な驚きを感じてしまった。サラリーマンだったら、この半分までいくまい。しかも、この主婦業を「極楽」と感じる主人公の大胆さ。「主婦として求められるのは臨機応変にそれぞれの生活をサポートする柔軟性」と、さりげなくコツを披露し、あくまでも脇役に徹することに「極楽」主婦業の本質を説いているのだろうか。
 愛人2人と関係する描写もあり、露悪的で眉をひそめるものの、そこは舞台となる沖縄の陽気な土地柄がプラスマイナスゼロにしてくれる。他にPTA活動や夕飯のための買い物などこと細かに描かれているが、こんな生活を毎日続けると疲れないのだろうか。終始疑問符がついた「主婦の日常」に、興味深さだけが残った。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   とある専業主婦の日常を濃密に描いた物語である。有意義で完璧な一日を心がけるコトブキは、今日も朝から大忙しだ。子どもを起こし、朝食の準備、朝っぱらから浮気に向かい、帰って来るとPTA活動へ出発。とにかく精力的に動き回る。愛と幸せに満ちあふれたかに見える暮らしに、死角はないのか。
 専業主婦を前向きに、ひたすら明るく描こうとする視点、それを一日に凝縮して表現しようとする試みは斬新だ。とかく暗く描かれがちなシチュエーションなだけに、この底抜けな明るさは希少である。悩み多き日々を持ち前の明るさで何とか乗り切ろうとする、気丈でひたむきな女性の物語。と読めなくもないが、それは深読みしすぎであろう。難しく考えるのはかえって失礼な気がする。
 極楽人生のすすめ。気楽に楽しく読めることが長所、それだけなのが短所。平凡な主婦のバイタリティと、個性的な思考に触れれば、あなたも超肯定志向人間になれる。かも。