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勝手に目利き
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カルカッタ染色体
カルカッタ染色体
【DHC】
アミタヴ・ゴーシュ
定価 1,890円(税込)
2003/7
ISBN-4887243227
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  大場 利子
  評価:B
   ムルガンは、ノーベル賞受賞者ロナルド・ロスの虜。虜だから、ロスが1895年から1898年まで、マラリア研究で訪れたカルカッタへ行ってしまう。虜だから、ロスの足跡を必死で感じようとする。そうした1995年にそこで行方不明。虜って、すごい。そこまでさせる。
 いろいろな地点と時点を行ったり来たりする。ムルガンはどこへ。虜になっているのは、本当は誰だ。ラストには、ぞくぞくが待っている。
●この本のつまずき→翻訳。そのおかげだろうか。人物も地点も時点もこんがらがることがなく、読み進む。

 
  小田嶋 永
  評価:B
   DHCって、コンビニで化粧品売っている会社だよね、そこがどうしてこんな本を? というのはどうでもいい。1997年のアーサー・C・クラーク賞受賞作である異色のインドSFだ。インドってのは奥が深い。今はどうか知らないけれど映画製作本数が世界一らしいから、SFだって隠れた宝庫なのかもしれない。話は、近未来、国際水利委員会(って、何をするところ?)の目録作り(何のため?)で、行方不明になっていた職員のIDカードが偶然発見されることから始まる。行方不明になった男は何を調査していたのか、マラリアの感染源の解明という歴史的事実、その裏にはマラリア原虫を使った技術開発の秘密が隠されていた!? と、「?」ばかりで恐縮だが、SF的設定、医学史、ミステリ、そして伝奇性がミックスされた物語だ。それにしても、「国際水利委員会」って何だ?

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   21世紀ニューヨークと1995年のカルカッタ、更にイギリス植民地支配下の19世紀末と三つの時間と空間が交錯する。まさにこの交錯を可能にする「不死」の神話的世界が「個体間転移」の技術、「カルカッタ染色体」として謎解きされようとしている。うーん。この誰かが誰かに入れ替わり立ち替わる得体の知れなさが何ともいかがわしく、妖しくも空恐ろしい。だが恐いモノ見たさ欲求とその怪しげな魅力についつい引き込まれる。隣人一人のがら空きぼろアパートで自宅勤務しているアンタールの人工知能末端AVAが読み出したかっての同僚ムルガンのIDカード、科学技術の最先端がインド魔術のような幻惑の世界の扉を開く鍵になってるというわけね。マラリア原虫の生態解明をした英国人軍医ロナルド・ロスの来歴に疑問を感じてカルカッタに行ったきり失踪したとされるムルガンは、ロスを陰で操っていた謎の助手たち、マンガラやラッチマンらの存在に気付きその謎を解く。マラリア原虫を使ってDNAを操る様は邪教の秘儀さながら。AVA上に現れた魔神のごときムルガンの大笑を聞くアンタール共々、遙かあちら側への後一歩に、恐怖なんてもんじゃないため息一つ。

 
  松本 かおり
  評価:C
   助走が長い。というか、助走のままで終わってしまったような気分。著者はインドのカルカッタ生まれとか。インドでは時間が淡々とゆったり流れる、と聞いたことがあるが、本作品にもそのあたりが反映しているのかも。マラリア研究の裏にあるという「陰謀」が、なっかなか盛り上がらない。睡魔が強烈に私を襲う〜、助けてくれ〜っ!
 終盤のエピソード「レヌプールの引き込み線」は、怪談風でゾクゾクしていいんだけどなぁ。「めくるめく眩惑の物語」とオビにあるように、読み進むうちにいつしか眩惑されて思考が混乱したのか何なのか、結末に至ってもどーもヨクワカリマセンデシタ、コレ。
 ただ、「人工的にマラリアを感染させることで、梅毒性の進行麻痺がしばしば治癒する、少なくとも症状が緩和される」、マラリア原虫の遺伝子組み換え能力が「頭脳の配線をちょっとだけ組み換える」といった点は興味をそそる。実際のところはどうだったのか、マラリア関連本を読みたくなった。