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勝手に目利き
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リトルシーザー
リトル・シーザー
【小学館】
ウィリアム・バーネット
定価 1,700円(税込)
2003/7
ISBN-4093565112
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  大場 利子
  評価:B
   リコ、そんなに急がないで。前ばかり見ないで。祈らずにはいられない。リコが発するオーラに全篇支配され、焦燥感が際立つ。読み手を落ち着かせず、始終貧乏ゆすりを強要する勢い。
 舞台はシカゴ。ヴェットリー・ギャング団。ボスに成り代わるリトル・イタリアきっての殺し屋リコ。勇敢・迅速・正確。ボスの風格は見いだせず。でも、リコから目が離せない。リコがずっと眠れず、やっと深い眠りにつこうとするシーン。唯一、ほっと出来た。
●この本のつまずき→著者の写真。たまらないほどの男前。連想させる登場人物がおらず、残念。

 
  新冨 麻衣子
  評価:B
   サム率いるシカゴのギャング団で仕事をするリコは、銃の腕前と度胸で仲間から信頼を得ていたが、とある強盗事件でボスから銃を撃つことを禁じられていたにもかかわらず、その場に居合わせた刑事を撃ち殺してしまう。だがその抜け目なさと冷酷さで事件を上手く押さえたリコは一気にシカゴのギャング界で一目置かれる存在となり、サムに代わってボスとなるも、彼の栄光に貢献した当の刑事殺しによって追いつめられるはめに落ち入ってしまう。
 帯には<犯罪小説の古典的名作!>。1929年の作品だ。たしかにある時代特有の大衆小説っぽい雰囲気がする。薄くて読みやすいが、最近のクライムノベルに慣れてる人からすると、ちょっと物足りないかも……。

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   易経にある「亢龍悔い有り」、登りつめれば下り坂、満つれば欠ける盈虚思想の類は日本の古典にはおなじみだけど、ギャング映画の古典の原作にでてくるとはね。シカゴの暗黒街のギャング団でのしあがったリコ、勿論、義理も人情もない下克上。自分を拾ってくれたかってのボスを追い落とし、弱気な仲間を躊躇なく殺す。酒も飲まず、女にのめり込まず、小柄な体をいつもピリピリ緊張させてるストイックなまでの目的遂行力、成り上がりもの根性むき出しの戦国野武士のよう。だが、彼をのしあがらせた野心、「何様でもない。名も無い男」ではいられないという自己顕示欲が、結局彼を滅ぼすことにもなるという皮肉は普遍的真実過ぎて、ありきたり。武力や知謀で権力を奪取してボスの地位についたところで、その地位を守っていくための隠忍自重ってモノが無いんだよね。そうそう、昔習った漢文に、「創業と守成といずれか難き」なんてあったアレ。「守成」の方が難しいって分かってない愚か者、自業自得っていうか、所詮穏やかに死ねない生き方をしてきた当然の報い。人はその生にふさわしい死を死ぬってわけ?そのありきたり感が何か嫌ァな感じ。

 
  松本 かおり
  評価:C
   ちんぴらのリコが現金強奪で一花咲かせ、大きな地域ギャング団のボスの座を乗っ取り、勢力を広げていく。フラハティ警部は執拗にリコを追い、「あの思い上がりのイタリア野郎をきっと捕らえてやる」と決意。リコと警察の鬼ごっこは終盤までもつれ込み、後半三分の一でいよいよ話は面白くなる。
 一晩でラクに読める長さに加え、豪速直球勝負!という感じのシンプルな内容。わかりやすく、思い切りよく、ざくざく進行していくギャング物語だ。著者自身が「客観描写と台詞だけで通し、行動がすべてを雄弁に物語るように書けばよい。心理学も投げ棄てた」と序文で語っているのだから無理もないか。
 凝ったヒネリもなければ、残忍冷酷な場面もない。全体に少々スケールが小さく思えてしまう。しかし考えようによっては、それこそ1929年初版という昔の小説ならではの長閑さで、地味なところがまた魅力、ともいえるだろう。現代の濃厚緻密で刺激的な犯罪小説と真正面から比べるのは酷、かもしれない。

 
  山内 克也
  評価:A
   下っ端のギャングが、縄張りのトップに立ち、そして堕ちていく。単純なストーリーだが、淡々とした筆致が暗黒街のすごみを引き出し、作品の読み応えはバーボンよりも酔いが深くなるのは請け合い。気の弱いボスは引きずり落とし、警察にチクろうとする手下は殺し、縄張りを荒そうとするライバルは謀略で潰しにかかる。金と名誉をかけたギャングたちの駆け引きだけをデフォルメして、リリカルに描いた佳品だ。
 最後の場面、主人公リコが警察に追いつめられ、発した言葉「ツキをくれ、何とかしてくれ」はじんわりと胸に染みてくる。ギャング世界で生きてきた者にとっては、ありふれた断末魔の叫びなのだろう。一方で、かの世界で生きるための極意ともいえる。古典的なノワールミステリだが、ギャングが跋扈したシカゴの雰囲気をたっぷりと堪能できた。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   シカゴの暗黒街で一介のチンピラだった悪名高き殺し屋リコ。彼はある現金強盗をきっかけに、リトル・イタリアにその名を知らしめていった。悪魔のような運と、狡猾な立ち回り、勇敢さと明晰な頭脳でライバルを蹴散らし、リコは一気にギャングの頂点へと駆け登った。本書は、ギャングスターとして君臨したリコの生涯をあざやかに描いた、クライム・ノヴェルの古典的名作である。
 スターダム。成り上がり。ワル。男心をくすぐるキーワードをそろえた物語は、スピード感にあふれ、最後まで一気に読ませる。筋書きのおもしろさに酔い、クールな登場人物の格好いい台詞回しにしびれっぱなしなのだ。
 惜しむはどきどき感が少ないところ。あっけないシーンが多く、情景を思い描く暇もなく次へ進んでいってしまうのだ。その点を補うことができる映画『犯罪王リコ』は傑作であるに違いない。それでも十分に良質なエンターテイメントを、この機会にぜひどうぞ。