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勝手に目利き
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ギャングスター
ギャングスター
【文春文庫】
L・カルカテラ
定価 (上)700円(税込)
(下)620円(税込)
2003/8
ISBN-4102009116
ISBN-4102009124
(上)
(下)

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   二十世紀前半、イタリア移民がニューヨークで生きるためには二通りの方法があった。他人の金を掠め取る生きかたと掠め取られ続ける生きかただ。アンジェロは、後者の人間である父を蔑み、ギャングスターとして生きる道を選ぶ。
 自分以外の誰も信じるな。それが相棒であろうと家族であろうと。本書は、この鉄則を守ることで生きて延びてきたギャングスターたちの物語だ。にもかかわらず、この物語には、なぜか、互いに支えあい、深い絆で結ばれた彼らの姿がある。不思議だ。
 病室で死を目前とし眠り続けるアンジェロを挟み、彼の最も近くで暮らし、彼に最も影響を受けたゲイブとメアリーがお互いの知らないアンジェロを語り合うという設定もおもしろい。

 
  中原 紀生
  評価:A
   死にゆく老ギャングの病室で深夜、若い男と初老の女が語り合う過ぎ去った百年の、三代にわたって繰り広げられた「自分の人生を自分で生きる男」の物語。それは、いつかどこかで観た有名無名の暗黒映画から切り出された印象的なシーンが、モザイク状に連なって紡ぎ出す凄惨で壮絶で悲哀に満ちたエピソード群のようだ。あるいは、意識不明の老ギャングの最期、悔恨と受容の苦さに縁どられた大いなる赦しの時に訪れた、鮮烈なフラッシュバックの奔流だったのかもしれない。そして、物語の結末で女の口から明かされるもう一つの真実。ほんのわずかな構成上のミスがすべてを致命的に損ないかねない、危うい緊張をはらんだ超絶的な語りが素晴らしい。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   大笑い! なんだコリャ! わざとらしすぎる! …いやぁ参りました。「古今東西のわざとらしくて臭〜いギャングのセリフ&シチュエーション大全集」をそのまま引用したかのような凄まじい展開とキャラクター造型です。褒め言葉として「馬鹿本」のレッテルを貼りましょう。作者はイッちゃってるなー。謎めいた冒頭…、と思っているのは作者だけで、語り手の正体はバレバレ。上巻の登場人物紹介に載っている人物で、下巻まで生き残れるヒトはほとんどいない状態ですが、その死のシチュエーションがVシネマかどこかで見たようなのばっかり。このバレバレさ加減やいかにも感が、なんだか逆に小気味良いんですけど。あるギャングスターの生涯、を波乱万丈に書こうと材料集めをして、最終的に(小説や仮想の世界で)ありがちなエピソードの積み重ねになっちゃってます。コレを大マジメに書いている作者に乾杯。映画になっても、たぶん見ないと思います。ゴメンね。