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沈黙のゲーム
沈黙のゲーム
【講談社文庫】
G・アイルズ
定価 (上)1,020円(税込)
(下)980円(税込)
2003/7
ISBN-406273785X
ISBN-4062737868
(上)
(下)

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   主人公、ペン・ケージが復讐心から三十年前に起きた殺人事件の解明に挑む。この未解決事件には米国政府をも揺るがす真相が隠されており、犯人の目星は付いているのだが、追い込むための証言がなかなか得られない。まさに「沈黙のゲーム」だ。
 絡まった糸を一つひとつ解すように事実を明かしていくが、同時に、家族や仲間や重要証人は傷つき、命を落していく。事件の真相解明が進む一方、新たな謎にぶち当たる。次々と新しい展開が繰り拡げられ、息をつく間もない。もう、わんこそば状態である。
 激しい銃撃戦あり、法廷での知的な攻防あり。かつての恋人のリヴィ、地元紙編集人のケイトリン、ウェイトレスのジェニーら、ペンを取り巻く魅力的で行動力のある女性たちの活躍もこの作品の面白さを一層際立たせる。サービス精神満点のサスペンスだ。

 
  中原 紀生
  評価:B
   陰謀うずまくアメリカ南部の保守的な街。その暗部に立ち向かう男の無謀とも言うべき勇気。父と子の二代にわたる復讐の物語。失われた恋の記憶と新しい感情の予感。腐った官能と清新な性愛。雪中の冒険譚。かつての恋人と敵味方になって弁論戦を闘う法廷サスペンス。これらの趣向すべてを一つにおしこんだ、なんとも贅沢な作品で、ストーリーの展開とともに複雑にからみあう素材群を手際よくさばく手腕は並ではない。起承転結の転、序破急の破までは、ひさしぶりに夜を徹する感興を味わった。でも、かつての恋人との絡みが続き、新しい女の影が薄くなっていくあたりで疑問符が点灯する。(これには、新旧二人の女性のどちらにより魅力を感じるかという読み手の側の事情が反映している。)そのあげく明らかにされた謎に説得力がないし、復讐譚としての快哉にも欠ける。詰めを急がなければ、文句なしの傑作だったと思う。(読み終えた時点ではA評価〔頁措く能わずのドライブ感あり〕だったのですが、『ギャングスター』との差をつける意味でB〔ドライブ感はないが悪くない〕に変更。気分としては、限りなくAに近いB。)

 
  渡邊 智志
  評価:B
   久しぶりに味わう高揚感と、ページをめくる手の遅さのもどかしさ! …でも、なんにも残らなかったんですよね。田舎の事件が実は…、というサスペンスの手法は、状況をクレシェンド(肥大化)させてゆくのに上手い効果を上げることが多いのですが、あと一歩のところで失敗しているように思います。人物設定のミス? ストーリーの齟齬? 事件の真相の意外性の有無? 問題は、真相が初めから明らかであった、という点にあると思います。裁判で勝つための裏付け調査、というのは、望ましい真相を導き出すための補完作業でしかないのですから、そこで浮かび上がってくる事実は読者にとって必ずしも意外なものとはなりえない。むしろ、当然の結末なのです。複雑に入り組んだ状況を丹念に解きほぐす辺りでは読書をかなり楽しんだのですが、途中から、決定的な証人の動向、その一点にだけ興味が集中してしまうので、逆に読み手の集中力は途切れてしまったようです。