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勝手に目利き
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くらのかみ
くらのかみ
【講談社】
小野不由美
定価 2,100円(税込)
2003/7
ISBN-4062705648
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  大場 利子
  評価:A
   ジャケ買い必須の外身。箱入りしかも穴あき・布張りの背表紙しかもタイトル金箔・「このシールははがせます」シールが帯代わり。そして絵は村上勉。たまらない。小さい時から目にしているせいか、随分な年寄りにしたてていた。まだ60歳です。
 それに引き換え中身は……。とならないのは、さすが、小野不由実。いや、今まで読んだことはなかったが。この物語を入り口に、小野不由実に入り込むのは私だけではあるまい。
●この本のつまずき→中表紙に「Zashikiwarashi」。ミステリーランド第一回配本の他の作品は、題名を英訳したものが印字されているが。どうして「Zashikiwarashi」。

 
  新冨 麻衣子
  評価:B
   〈かつて子どもだったあなたと少年少女のための“ミステリーランド”〉!その第一弾のうちの一冊が本書である。ちょっとノスタルジックな挿絵とカバー(箱付きだ)。中身も沼やら蔵やら冒険する箇所の多彩な田舎での少年少女たちの謎解きで高感度大。
 私が小学校のときには、江戸川乱歩とか、アルセーヌ・ルパンものとかシャーロック・ホームズとかが、図書館で本を借りる子どもたちの中で人気があった。わたしはルパンが大好きで、その他にも名前すら覚えてないが、古い海外のミステリーを読んでた記憶がある。中学校の図書館は校舎と別棟の古い木造建築で、蔵書は少ないけれど落ち着ける場所だった。自分の直感だけで本を選んで、読みたい本はたくさんあった。そんなときをつい思い出してしまうっていうのも宣伝コピーにのせられたせいかなぁ?

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   「見ず知らずの遠い土地」山奥の更に四方を山に囲まれた旧家、たたりで後継ぎが子供に恵まれないため、莫大な資産相続をめぐって親戚一同とその子供たちが呼び集められた。そんな中で次々おこる怪事件の謎を子供たちが探検するお話。樹齢二百年の桜、幾人もの人が引きずりこまれたたたりの行者沼、家の守り神の「お蔵様」をまつる蔵座敷を始め、古井戸や屋根裏部屋、床下や池など入り組んだ古屋それ自体が冒険的で楽し気。そんな遠野物語のような道具立てに、子供たちのなかに紛れこんでいる座敷わらしは誰か?お浸しに毒を入れたのは?謎の読経や人魂の正体は??と考え行動する子供たちの探偵ぶりが可愛い。けれど、動機は「財産相続」つまり金とハッキリし過ぎ、大人はどれも大雑把に大人で、誰が誰の親なのか、どうでもいい感じ。なら、子供たちは個性的かというと、やはりフツーの子たちばかりで、この作者にしては期待したおどろおどろしい恐さがなかったのがちょっと物足りない。古い家の持つ不思議な力は「カンバセーション・ピース」じゃないけれどそこに住む人の思いの深さから引き出されるとしたら、一時的寄り集まりの子供たちが主役じゃ役不足。

 
  松本 かおり
  評価:A
   大伯父の跡目相続問題で本家に親戚一同が大集合。そしてなぜか、妖しげなできごとが連続する。5人のはずの子供の姿がいつの間にか6人に増え、大人たちの間では毒草を使った食中毒事件が発生。子供たちは一致団結、犯人探しに動き始める。この子供たちは侮れないぞ。大人顔負けの推理に脱帽だ。
 古く広大な木造屋敷ならではの濃厚な闇・陰・夜と、「お蔵さま」や「行者殺しの伝説」「たたり」といった本家にまつわる伝承が絡み合い、ほどよく不気味さを盛り上げている。シンプルな物語ゆえに間口も広い。犯人探しに浸るもよし、「おとなは常識で割り切れない出来事にあうと、深く考えずに偶然だって言ってかたづけちゃう」なんて耳の痛い指摘に反省するもよし。「お金持ちになるのは、いいことなのかい?」と自分自身の人生観を問うもまたよし。
 ところで本作品、読む読まないはともかく(もちろん読んでほしいけれど)ぜひ一度、実物を見てほしい。装画といい、手触りといい、「美装本」「愛蔵版」という言葉がこれほどしっくりくる本も珍しい。一目惚れ。この本が今、目の前に存在している、それだけで私はたまらなく嬉しい。

 
  山崎 雅人
  評価:A
   本の復権を願い、とのことだが、それ程までに少年少女は本を読まないのであろうか。いや、おもしろい本は読んでいるのだ。古き良き時代の古典が読まれなくてもいいと思う。どんどん新しくおもしろい本を出せばいい。それが、時代の変遷というものなのだから。
 で、かつて子どもだったあなたと少年少女のための本はというと、魅力あふれるシリーズになりそうな気配を、びんびん感じさせるものであった。ワクワクが満載の一冊である。
 おじいちゃんの広い家、座敷童子、おとうさんのピンチ、そして探偵団の結成。こころくすぐられるキーワードがめじろ押しだ。そして最大の謎は解きあかされぬまま、ドキドキ感は物語の最後まで続くのであった。
 おとなをだませないもの、おもしろくないことは、子どもはもっとつまらない。そのことが良くわかっていると思う。子どもだましは、おとなもだまされるのだ。本への熱い想いが、子どもたちに伝わるといいのに。