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勝手に目利き
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黒い悪魔
黒い悪魔
【文藝春秋】
佐藤賢一
定価 2,100円(税込)
2003/8
ISBN-416322050X
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  大場 利子
  評価:A
   先月も課題図書でした佐藤賢一。いくら西洋歴史小説が苦手でも、続けてトライすると慣れてくる。日々訓練。先月より、佐藤賢一を満喫。
 好きな女と結婚するために、将軍までのぼりつめようとするデュマ。祖国フランスのために戦う。デュマが歩く道筋をたどっただけで、こんなにもおもしろい歴史小説が生まれるのか。ますます、佐藤賢一から目が離せない。
●この本のつまずき→ナポレオンが出てくる物語を始めて読む。自分の無知に本日もつまずき。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   カリブのコーヒー農場から、白人の父に買い戻された鬱屈した混血奴隷少年。優雅なパリでの遊蕩生活もつかの間、父に再び捨てられ、奴隷の蔑称母の姓デュマを名のり軍隊に入り、ひたすらその黒く強く大きく美しく野蛮な肉体を武器に暴れ回り、「黒い悪魔」の異名をとる。時はフランス革命、「人権宣言」の人間平等精神を教えてくれた旅籠の娘マリー・ルイーズとの結婚を条件に昇進を求められ、革命軍の将軍にのし上がっていく。と言っても単純な出世譚ではない。舞台はあの政治的陰謀渦巻く失脚即流血のギロチンの時代、猫の目のような権力交替の中で、「人権宣言」の理想を単純に信奉する彼は生き残れるのかとはらはらさせるところが上手い。自ら奴隷だった過去を告白して、ジャコバン党の恐怖政治がもたらす奴隷根性を告発する場面など「千両役者!」って声をかけたくなる。「認められたい」のに要領よく立ち回ることができず、冷遇される憂さを戦場の熱狂ではらす自暴自棄の悪循環、台頭するナポレオンに対する劣等感や嫉妬を彼の妻がかって自分の愛人でもあった浮気女だと貶めることで晴らそうとする人間的に愚かなところまで隈無く描かれ、変な美化がないところがいい。

 
  松本 かおり
  評価:B
   類まれなる完璧な肉体を持つ白人と黒人の混血奴隷・デュマがついに将軍の座を手に入れる、フランス革命時代の立身出世物語。短気で猪突猛進の性格と融通のきかない要領の悪さもあって、昇進街道は波乱の連続。戦闘では華々しい活躍をしながらも、閑職に就かされ、僻地へ飛ばされ、一時は自暴自棄になりかけて……。
 この流れ、何かに似てると思えば、現代サラリーマン生活ではないか。業務遂行能力抜群の新入社員がめきめき頭角を現すも、いざ昇進となると地味な学歴が邪魔をする、ウマが合わない上司には不当に低い査定をつけられる。やっと昇進してみれば、暗い嫉妬を抱く同僚・先輩が嫌がらせ。軍の遠征はさながら単身赴任だ。「家族のため」を口実に何年も家を空けているうちに、夫婦仲が冷え気味に……。身につまされる方も多いかも。
 そして、救いとなるのはいつの時代も家族愛。妻に叱咤されて、オトーサンは「はっ」と目覚めるのであ〜る。フランス革命と聞くだけで、苦手意識がぬっと顔出すワタクシなのに、えらく楽しんでしまいました。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   フランスの文豪デュマの父の誇り高き人生の物語である。カリブ海の島に生まれたトマ・アレクサンドルは白人の父と黒人奴隷の母の間に混血児として生まれた。プライドが高く短気で、思いこみの激しい嫌な男であった。
 フランスに渡りデュマとなったトマは、革命の波にのった。勘違いに真正直を塗り重ね、横暴に無謀を掛けあわせた怒濤の快進撃で、奴隷から将軍に一気に登りつめたのであった。
 著者の描く世界が魅力的なのは、登場人物が人間味にあふれているからである。主人公デュマも、誇り高いと書いておきながら何だが、非常にしょうもないやつなのだ。ほおっておくと確実に3日で処刑されそうなのである。黒い悪魔と恐れられた男がである。
 そんなおちが物語に血を通わせ、感情豊かで生き生きとした印象を与えてくれるのだ。西洋大河ロマンも形無しのおちゃめなストーリーは、緊張感には欠けるが、読み応えは十分である。くせになる、かもね。