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ふたつの太陽と満月と
ふたつの太陽と満月と
【集英社文庫】
川上健一
定価 630円(税込)
2003/8
ISBN-408747609X

 
  延命 ゆり子
  評価:B
   ニューヨークとゴルフというキーワードにこだわりすぎていて設定に無理があるような……。絶世の美女が尋ねてきたり、婚約者を寝取った親友が訪ねてきたり、そして何でもゴルフで決着をつけたがるのが謎。ゴルフ好きな人にとっては楽しめるのでしょうか。わかりません。その中で、確執があった父親とプレイして、心をふれあわせることができる「メリークリスマス」はジンときました。

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   わたしはゴルフをやらないし、まったく観ない。にもかかわらず、この短編集は充分愉しめた。「ゴルフ小説」というより、ゴルフ場を舞台とした「人生劇場」だからだ。もちろん、スキンズとかディボットといった知らない用語も、適当にあたりをつけて読み進めば問題なかった。「世界で一番物騒な町」と悪名高いサウスブロンクスにあるサイテーのゴルフ場で繰り広げられる人間臭い物語。この短編集が、ゴルフ好きの人にはわたしの十倍おもしろく読めるのだとしたら、ちょっと悔しい。
 6つの短編はいずれも心揺さぶる佳作ぞろいだが、表題作「ふたつの太陽と満月と」が一番気に入った。

 
  鈴木 崇子
  評価:B
   NYの危険地帯、サウスブロンクスのゴルフ場を舞台に、突然現れ、プレーし、そして去ってゆく人々。ゴルフ好きの主人公を経糸とすれば、ユニークな彼らは色とりどりの緯糸みたいだ。織りなす物語はさまざまだが、どの作品もほどよく笑えて、ほどよく泣ける粒の揃った佳作ばかり。特に好きだったのは表題作の「ふたつの太陽と満月と」と「メリー・クリスマス」。 クソ真面目でクレイジーなゴルフ対決はなかなか愉快だったし、堅物で不器用な父親と主人公の邂逅にはしんみりしてしまった。ストーリーだけでなく、人物描写も秀逸で楽しませてくれる。この本の登場人物ベスト3(と勝手に思っている)、“ゴルフシューズ”のポコさん、“糞ったれ”ピート、“宝飾品は心の衣服”カルロス鈴木がおもしろおかしい。
 気になったのは、オチ(?)が見え見えなところだろうか。それなのに遠回りしてじらされているようで、結末を確かめたくてついつい頁が進んでしまった。実はそれが作者の狙いだったりして??

 
  高橋 美里
  評価:B
   ゴルフはお好きですか?私は好きです。
 ニューヨーク・サウスブロンクスそこには世界でいちばんぶっそうなゴルフ場がある。その名はバンコー。ゴルフ場を舞台に描かれる連作短編。
 ゴルフ雑誌で連載をしていたものなので、ゴルフ用語が多く、若干読みにくい。ただ、バンコーで繰り広げられる人間模様は、あったかい。
 一番ぶっそうだろうが、危険だろうが、幸せにプレーの出来るコース。気の知れた仲間。たとえ、コースでバーベキューをしてるやつがいたって、警察の捕物が繰り広げられたって、いいじゃないか。
 あったかい気持ちになれる、作品集でした。

 
  中原 紀生
  評価:B
   全米で一番古く、一番物騒かもしれないNYのパブリックコースで繰り広げられる、スキンズ(賭け金)付きの六つのゴルフ・マッチ。そこでほんとうに賭けられているのは、実は人生の意味であったり、人格であったり、一人の女をめぐる友情であったり、生きのびるための偽装であったり、父と息子の和解であったり、幼い日の淡い記憶であったりする。主人公はそれらの勝負に立ち会い、時には自らが(婚約者を奪っていった友との、十数年ぶりに再会した父親との、過去のどこかですれちがったはずの謎の美女との)闘いの当事者になる。「ゴルフは宗教だ!」──作中のある人物が叫ぶこの言葉に共感できるほどのゴルフ・ファンだったなら、このアイロニカルでいながら爽快で温かく、そこはかとない懐かしさを漂わせた六つの物語に、きっと魂をまで揺り動かされるに違いない。心からゴルフを愛する者に、作者が贈った六つのプレゼント。なぜ続編がないのか、不思議だ。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   青春時代を思い出す熱い小説! スポーツを丹念に描いた物語を読むと、涙腺もゆるみがちになるってもんです。ゴルフの用語もルールもなにひとつ知りませんが、そんなことどうでもいいんです。「スキンズ」とさらりと口に出し、例え1ドルでも真剣勝負をくりひろげる…、そんな姿を心底うらやましく思いつつ、最後に涙が少しこぼれます。スポーツの世界で勝負する人間たちは、それ以外の世界ではいっさい関わりのない純粋な立場どおしのほうが魅力的だと思います。この連作には主人公に直接関わりあいのある人間が登場しすぎるので、ゴルフを通じて人間関係が築かれる、というよりは、ゴルフを通じて人間関係が修復される、という展開になってしまい、結果としてゴルフ勝負の持つ純粋さが薄れているのがちょっと残念です。とはいえ、父親が出てくる話は本当によかったです。男親と息子って基本的に会話がないものだから、黙々とゴルフする絵が美しいんですよね。