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コウノトリの道
コウノトリの道
【創元推理文庫】
ジャン=クリストフ・グランジェ
定価 1,050円(税込)
2003/7
ISBN-4488214061

 
  池田 智恵
  評価:B
   ミステリー作家は大変だ、と思う。エンターテインメントというのはある程度の不文律によって支えられているからだ。特に、黄金のパターンみたいなモノが確立されていそうなミステリーという分野で、エンターテインメントでありながら個性のある作家として存在し続けるのは、かなり困難なことだと思う。この本も、ある種の定石的な構造を根幹に抱えながら、いろいろ殺し方とか状況とかに個性を与えようとしている感じ。「ああ、がんばってるな」なんて思ってしまった。こう書くとけなしてるみたいだけど、この本、面白かった。定石を打つのは大変なんだろうし。でも、一番明確に感じたのが、そういうようなことだった。うーむ。

 
  中原 紀生
  評価:B
   様々な伝説によって、ヨーロッパから中東までいたるところでその特別な力が信じられているコウノトリ。オレンジの嘴を持った白と黒の鳥。ある年、アフリカから渡ってくるはずのコウノトリが姿を消した。謎の鳥類研究家から調査を依頼された青年ルイが、フランスからスイスへ、ブルガリア、トルコ、イスラエルから中央アフリカへと探索行を続ける。先々で起こる惨たらしい殺人。殺し屋から逃れ、自らもまた血で手を染め、つかの間の官能に心を休め、やがて国境をまたいだ奇想天外な犯罪のトリックを暴く。そして、秘められた自身の生い立ちの謎へと迫っていく…。コウノトリの渡りを題材とした壮大な仕掛けが素晴らしい。第一級のフィクションの香りが漂うが、ルイの冒険譚がただ物語の筋を追うだけでサスペンスの高まりと深まりに欠け、コウノトリにまつわるミステリーと「指紋のない男」ルイの過去をめぐる謎との関連づけがやや強引。