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もっとハッピー・エンディング
もっとハッピー・エンディング
【文春文庫】
ジェーン・グリーン
定価 860円(税込)
2003/8
ISBN-4167661446

 
  池田 智恵
  評価:E
   あまりにつまらなくて、もう「論ずるに及び申さん」の一言に尽きる。ちょっちインテリだけど人生に疑問も持ちつつみたいな女が書店を開いて様々な困難に直面しながら、上手いこと人生を豊かにしてゆく話なんだけど、人間描写が適当で、次々に事件が起こるわりにはその解決法もご都合主義で唖然。でも、輸入されてくるからにはそれなりのイギリス本国でのニーズに支えられているわけだ。その内訳を検証しなきゃあならない。でもま、ようするに、「対岸の火事」だろうなと思ったりする。向こう岸の火事は楽しい。火の粉が降りかからない位置で見ている人間にとっちゃ、病気も恋愛もまずい別れかたをした昔の友人も全てわくわくのネタだ。そういうふうに考えりゃあ、次々と事件が起こってばたばた解決されてゆく様子というのは、その解決の方法がどんなに嘘臭くても快感だろうな、とは思った。あー、昼ドラなんじゃないですか。つまりは。

 
  延命 ゆり子
  評価:B
   31歳独身、仕事は楽しいし友人は最高。彼氏はいないけどもうあきらめ気味。男に媚びる年でもないし、新たに関係を作るのも面倒。けれど何かが物足りない。本当は待っている、わたしだけの王子様。ああ、誰か私をさらって! こういう話を私は今まで何冊読んできたのでしょう。少々食傷気味の私です。だって、結局必ず「そのままの私」を好きになってくれる男性が現れるのだ。化粧もせず太っていて髪もボサボサ。そんな君が好きだ?そんなオトコいねんだよ!………それはともかくとして、このシンデレラ願望を軸に、色々な要素が絡んでくる。ゲイ、エイズ、女性の起業(書店経営)、浮気の謎解き、様々な問題点が怒涛のように押し寄せて、読者を飽きさせないのはすごい。いっそ、私の王子様の一連のエピソードは要らないのではないかと思いました。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   もっと幸せになるには、あと一歩足を踏み出さなければならない。それはとても勇気がいることで、耳元でやさしく励ましてくれたり、背中をドンと押してくれたりする人が必要だったりする。
 キャスが順調だった仕事を辞め、貯金を投げうって、かねてからの夢だった書店経営に乗り出すことができたのも、面倒で傷つくだけの恋愛に今さらのようにチャレンジしたのも、みんな彼女を囲む素敵な友人たちのおかげだ。
 何もかもわかり合い、何もかも許し合えた学生時代からの友情。家族が増えれば、その分だけ信頼できる友人ができていく。キャスは彼らを心から愛しており、もちろん彼らもキャスを愛している。皆、個性的で魅力的。素敵に描かれている。
 欧米特有とも思えるこういった人間関係が生み出すドラマはある意味とても新鮮だった。

 
  中原 紀生
  評価:C
   たまたまTVで放映されていたメル・ギブソン主演の『ハート・オブ・ウーマン』を観た後で、この本を読み終えた。ロマンティック・コメディというこの種のジャンルの映画は、出演している男優や女優の演技力いかんで、心にしっくり残ったりくだらない時間つぶしに終わったりする。もっとあけすけに言うと、好みの俳優かどうかで印象が決まってしまう。前回のアン・タイラー、いつぞやのデビー・マッコーマー、そして今回のジェーン・グリーンの作品はいずれも、家族や恋人や友人やライバルとの丹念に綴られた人間関係をベースに、別れと出会い、成功と挫折、そして新しい人生への漠然とした不安や期待を渾然と描いた、女性の「ライフスタイル小説」とでも言えるもので、結局、ヒロインやそれをとりまく友人、恋人たちにどれだけ感情移入できるかが勝負。で、『もっとハッピー・エンディング』は、ストーリーはよく出来ていて、異性愛に同性愛、友情に性愛と多彩に繰り出される人物の絡みも面白いのだけれど、やっぱりヒロインの人間像が掴みきれないまま終わってしまった。誰か好みの女優の容貌や声や振る舞いを想定しながら読んでみればよかった。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   女性は、自分の周りの少数の人たちで確固としたコミュニティを形作り、その状態が何年も何十年も続いて欲しいと願うものなのでしょうか。その中に入ってくる者は、異端児であれば追い出すし、無味無臭でコミュニティの秩序を乱さない幽霊のような存在であればすみっこに置いてやる、というのが理想なのでしょうか。実際の生活においては、学生時代に作り上げた人間関係などは、一見雲散霧消しつつも、十年経っても姿かたちを変えながらきちんと礼節を守って維持されている、という状態が望ましいと思うのです。この小説のようにいつまでもベタベタしている人たちは、なんだか気持ちが悪いです。唯一胸のすく言動で好感が持てるのは、十年前に仲間を裏切った(?)ポーシャ。でも彼女、別になにひとつ悪くないし、過剰反応して仲良しグループから追い出した主人公たちの方が大人気ない偽善者。ラストのパーティもあやふやで、タイトルに偽りありという印象です。