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勝手に目利き
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文庫本班

青鳥
青鳥
【光文社】
ヒキタクニオ
定価 1,680円(税込)
2003/8
ISBN-4334923976
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  川合 泉
  評価:A
   働く全女性の方へ。この物語の中には、理想の上司と、等身大のあなたがいます。
「ゴーで行こうぜ」。藤原統括部長の言葉は心にスカッとくる。適当なようで、一番仕事に真摯な藤原部長に、私はいつの間かファンになっていた。この物語には、台湾人、フランス人、アメリカ人…といろいろな国籍の人物が出てくる。お互いが、互いの文化に嫌味を言っているのに、差別的な感じがしないのは、キャラがしっかりと作られているからだろう。そして、この本のもうひとつの楽しみは、食事だ。特に、台湾料理の描写が上手い。台湾料理特有のとろとろの脂身が、何度も目の前に浮かんでくる。とにかく食べることが好きな主人公にもかなり親近感が持てる。
 人生も仕事も、多少強引に進めた方がうまくいく。あなたにとって幸福とは何ですか。その答えが、この本の全体に密かにちりばめられている気がする。

 
  桑島 まさき
  評価:C
   台湾人のシャオウェイと田主丸の一人称の語りが交互に描かれ、突如、人称が変わり、二人が同じ広告会社に勤務する仲間だと分る。ギョウカイの現場がリアルだ。外資系企業かと見紛うばかりに次々と登場するガイジンたちとの会話は興味深いものの、残念ながらその造型は浅く奥行きにかける。特別な事件が起こる訳ではなく、あるプロジェクトチームが一致団結して一つの仕事を仕上げていく過程が臨場感たっぷりに描かれる。「現代」を現す会話や無数の固有名詞の羅列には驚かされ、ギョウカイになれない人、興味のない人には頭が痛いだろうが、軽妙さで読ませる。
 ギョウカイで一際頼もしい存在に思えるのは、カツラをとっかえひっかえする、パワフルな“変な人”、藤原だ。一見、軽ソーに見える田主丸が実は常識的な家庭人だったり、何をしているかわからない藤原が実はここぞという時に会社人間だったりする箇所など、「軽い小説」=「喚起力のない小説」では割り切れない点を秘めている。「企業小説」として読めば価値ありか? ゴーで行こう!

 
  藤井 貴志
  評価:D
   東京に出てガムシャラに働きながら、「自分だけの幸福」を探し続ける30代の台湾人女性が主人公。そんな熱い女性を主人公とする割に、物語全体の“温度”は意外と低い。
僕が物足りないと感じたことをいくつか挙げてみよう。(1)主人公と一緒にプロジェクトに携わる多国籍チームの面々が、ごく一部の中心人物を除いて十分に個性を表に出しきれていない。(2)主人公が台湾女性であり、かつ、東京にある多国籍企業で働いていることに物語上の重要性が感じられない。(3)物語の後半で主人公の恋愛に話が及ぶが、これがけっこう唐突。
ストーリーは退屈することなく追って行けたが、物語の全体的な印象は淡白だ。これが「今の日本」というのなら、僕は読書の世界でまで今の日本とは付き合いたくはない。たしかに勢いよく読み終えることができたが、それは“引っかかり”が少なかったという意味でもある。

 
  古幡 瑞穂
  評価:A
   これまでの作品では蘊蓄が長すぎるくらい長かったヒキタさん。しかし今回の作品は、そういった贅肉をそぎ落としてすっかりスリムになって帰ってきました!物語は台湾から出てきて東京の広告代理店で働く女の子が主人公なんだけど、これがまあ恐ろしいくらい細かいところまでリアルに描かれています。ヒキタさんの描く女の人って躍動感があって好きです。泣いたり笑ったりの顔が容易に想像できるんですよ。彼女の頑張りと悩みは30代前後の、独り身で男社会に混じって仕事をし続ける女性陣にとってはたまらないものじゃないかと思います。仕事で一緒になった上司の影の大きさを、相手の懐の大きさとだぶらせて考えて惚れてしまうところなんか、なんだかやけに納得気味。女の子が等身大なのに、まわりの登場人物は破天荒な人ばかり。そのありえなさが笑いを誘って物語のスパイスになってくれます。部長のはじけっぷりとトラブルバスターとしての有能さは見もの!とにかくどことなく切なくて笑えて元気になれる作品。うーん、いいぞー

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   今月読んだ課題図書の中で、最も「拾い物だ!」と思ったのがこれ(などと言ったらヒキタクニオさんに失礼か。すみません、予備知識がなかったものですから)。広告制作の世界や多国籍な面子が揃う職場は私には縁遠いものだが、どんどんページが進んだ。
 主人公はもうすぐ30歳になろうとする中国人女性シャオウェイ。腰かけではない、少しでもいい仕事をしたいと願う女性にとって、社会は甘くない。でも、足を踏み鳴らす日々が続いても、納得のいく仕事をやり遂げた達成感は何物にも代えられない……。
 私のへたな要約では、気恥ずかしい人生訓か何かと思われそうだが、作者の小気味よい文章による人物描写が効いているため、好感の持てる内容に感じられると思う。
 登場人物の中で、私が気に入っているのが藤原部長だ。ファッションセンスをはじめとにかく奇抜な人物で、彼のためだけにでもこの小説を読んだかいがあったと思っている(しかし、人によっては、というか、たいていの人が、私の意見には不賛成かもという不安も拭えないが)。

 
  三浦 英崇
  評価:C
   人間関係の力加減が分からなくなることが、俺にはよくあります。好きな女性に振られたり、知人と絶縁したり、仕事で困難に陥ったりして、その場では懲りるんだが、またぞろ繰り返しては迷惑をかけ、自分もダメージを食う。そんな俺にとって、この作品は、今までの失敗を再検討する絶好の機会を与えてくれました。
 ぐっちゃんぐっちゃんになったプロジェクトを立て直すのに、人を見て絶妙な対応を下す、切れ者の変人・藤原部長の姿は、まさしく、企業で生き残る理想の「大人」像。いくらなんでもそりゃ危ないだろおっさん、とたまに突っ込んだけど。
 そんな大人たちにフォローされて、自分の仕事への誇りを貫き通そうと戦うヒロイン・小蔵。羨ましいなあ。なかなかこんないい環境で仕事なんてできないぞ、実際。こういう状況を「幸福」って言うんです、きっと。
 青い鳥は、いつも自分の側にいる。捕まえるためには、紆余曲折が必要だけど。俺も大人にならんとな、と思います。もう三十路ですし。