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もう一人のチャーリイ・ゴードン
もう一人のチャーリイ・ゴードン
【ハヤカワ文庫JA】
梶尾真治
定価 609円(税込)
2003/8
ISBN-4150307342

 
  池田 智恵
  評価:C
   こういう話の帯に「ノスタルジー」という言葉がついているのはどうしてでしょうか。いやあ、ちょっと困りますね。だって、ここに収録されている話って「ほんとうの自分」に関する話ばっかりじゃないですか。強欲爺、妻に捨てられた頼りない男、親のあとを継ぐ気になれない道楽息子。彼らが誰かに「わかってもらえる。もしくは、実はわかってもらっていた」ことが判明する、そんな話ばっかで。でも、「ノスタルジー」って、そういうものなんですか?過去の肯定は大事だけれど、それがこんなに安易でいいの?だって彼ら、犯した失敗にきちんと対峙していないよ。率直な意見を言うと「こんなヘタレだったり、根性悪だったりする連中に、いきなりOKサインが出されるなんてそんな都合のいい話があってたまるかーっ!!」。でも、「慰め」って一般的にはこんなもんなんでしょうか。

 
  延命 ゆり子
  評価:B
   ちょっといい話を揃えたよくある短編集か……と思っていたらバリバリのSFもあって、満足です。宇宙人が来訪したり、宇宙旅行をしたり、超能力があったり、そういう不思議モノが大好きです。古さを感じるわけではないのだが、星新一をガツガツと読んでいた若い頃を思い出して甘酸っぱい気持ちになりました。ただ、オチがちょっと弱いため、記憶に残らないのが難点か。読んだそばからすぐに忘れそうな話ばかりではあります。

 
  児玉 憲宗
  評価:AA
   短編傑作選・ノスタルジー篇。
『もう一人のチャーリイ・ゴードン』は、せつなさ、哀しさで胸が締めつけられる感じ。『芦屋家の崩壊』は、やさしさに包まれて心穏やかになる感じ。他の四作品も同類のやわらかな読後感がある。そう、「ノスタルジー」とは実に的を射た表現だ。時代や場所が限定していないところがいい。
 この短編集については「どの作品が一番良かったか」とは訊かないでほしい。甲乙つけるのはもったいない秀作揃いなのだ。

  鈴木 崇子
  評価:A
   SFっぽい設定の中で描かれているのは、親子愛や家族愛や友情など普遍的なテーマ。けっこう泣かせる作品揃い。中でも「芦屋家の崩壊」。古い家を守る孤独な老人の不思議な体験に、訳もなく懐かしさがこみ上げてきて感動的。「夢の神々結社」は遠く離れた地に暮らす少年たちのテレパシーによる交流を描いて、またも感動的。「清太郎出初式」は明治時代の熊本とH・G・ウエルズの火星人侵略をからませた、とんでもなくギャップのある設定。それでいて生き残った人々の心の絆を描いてまたまた感動的なのだ。押し付けがましくなく、すとんと感動のつぼにはまってしまうのは作者の力量によるものか。
 かと思えば「地球屋十七代目天翔けノア」の皮肉な結末は、ちょっとしたホラーだ。最初の「もう一人のチャーリイ・ゴードン」と最後の「百光年ハネムーン」がつながっているのも、短編集としてまとまりがあっていい感じ。

 
  中原 紀生
  評価:B
   「梶尾真治短編傑作選ノスタルジー編」。SFに胸を躍らせた少年の頃、ふと頭に浮かんだアイデア(物語の種子)をそのまま素直に文章にしたような、とても瑞々しくてどこか懐かしい短編小説が6篇、呑めばたちまち変形加工された記憶を自在に紡ぎだす夢のカプセルのように収められている。表題作「もう一人のチャーリイ・ゴードン」に出てくる「大和石」(ヤポニウム。海水から抽出された奇蹟の鉱物で、細胞賦活の効能をもつ)が「百光年ハネムーン」では文明を更新させるエネルギー源として登場し、同一の人物のその後が描かれる。ここにも少年のアイデア、いや森羅万象につながりを見出す神話的想像力の特質がよくあらわれている。なによりも一篇一篇に控えめな感動がしつらえられているのがいい。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   想定している読者は小中学生でしょう。でも自分が小中学生の頃にこの小説を読んでも、今と同じような印象を持ったのではないかと思いました。わざとらしく嘘っぽく説教くさい。小説なんだから、そもそもわざとらしく嘘っぽく説教くさいシロモノなんだけれど、許されるわざとらしさと我慢できない嘘っぽさがあって、本作は後者。ネタのセレクションは間違っていないし、書き出しやキャラクター造型もけっして悪くない。なのに結末に向かうにつれて、どんどん嫌な気分になっていきます。どの話も間違った方に落ちていくんです。道徳的に間違っている、というわけではなく、小説としてそっちに行っちゃダメだろうー、という方向で終わるものばかり。泣かせの手法も意外などんでん返しのビックリ感も、ことごとくハズレ。ほんの少し描き方を変えるだけでなんとかなると思うのですが、どうやらこれは作者の傾向なのでしょうから、自分に合わなかったと諦めましょか。