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秘められた伝言
秘められた伝言(上・下)
【講談社文庫】
ロバート・ゴダード
定価 920円(税込)
2003/9
ISBN-4062738406
ISBN-4062738414
(上)
(下)

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   失踪した友人を捜し求め、故郷サマセットを皮切りにロンドン、東京、京都、サンフランシスコなどを経て再びロンドン、サマセットへ。主人公が真相究明のために最も長い距離を移動したミステリーとしてぜひともギネスに申請したい。主人公が移動したのは距離だけでない。謎は、四十年も前に起きた大事件に端を発しているので長い年月を遡る必要があるのだ。もちろん、距離と時間の移動の長さはこの作品の魅力なのである。
 真相を追えば追うほど、どんどん危険な目にあう主人公ランスは何度も挫けそうなる。彼のまわりの人はもっと悲惨だ。脅されたり、襲われたり、殺されたり。ランスは自分の行くところに危険が待っていると感じていたようだが、実は彼が危険を連れて旅していたのだ。まるで疫病神のような主人公のもとで次々と巻き起こるトラブルに息が抜けないのだ。

 
  中原 紀生
  評価:C
   あのゴダードの新作とあって、期待に胸躍らせて読み始めた。といっても『永遠に去りぬ』しか読んだことはないのだけれど、まあ虜になるのに何冊も読む必要はないのであって、あの一冊で私はすっかりまいってしまったのだ。ところが、期待が大きすぎたがゆえの反動もてつだってか、この『秘められた伝言』はとんでもない失敗作で、ほとんど駄作の域に達している。失業中の主人公が、失踪した友人をたずねてロンドンへ、そしてベルリン、東京、京都、サンフランシスコを経て再びロンドンへと移動する。行く先々で都合良く、友人の消息を少しずつ知る人物と出会い、やがて、すべての謎が1963年という年に集約していく。後に明かされるその謎も含め、だらだらとしたおしゃべりの中ですべての物語は進行する。ここにはストーリーはあるが、プロットがない。人物はいるが、生きた人間がいない。アイデアはあるが、読者を陶然とさせる語りがない。どうした、ゴダード!

 
  渡邊 智志
  評価:C
   外国人が日本を舞台にした小説、ということで、悪い予感がしました。…みごと的中。誰もが想像するような、グダグダな登場人物とグダグダな展開。取材と称して日本旅行に来たのでしょうけど、中途半端に正確さを期そうと努力した描き方で日本人に苦笑されるくらいなら、フジヤマゲイシャのビックリジャパンの方が潔いと思うんだけどなぁ。たとえ日本が舞台じゃなかったとしても(そんなモノは取るに足らない瑕疵だ!と広い心で割り切っても)、強大な敵や全編に渡る謎などの散りばめ方にも、不満がたくさん残ります。うーん、消化不良だ。タイトルに偽り有り、ですね。主人公の造型にはニヤリとするところがないわけでもないですが、それだけじゃあ不満。結論、「人気作家のやっつけ仕事」。多作ゆえの弊害だな。コレを読むくらいなら、この作者の他の作品をたくさん読んだ方がずっと時間を有効に使えます。(他の作品は面白いんだって。『惜別の賦』とか…!)