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├2001年7月
├2001年6月
└2001年5月
天正マクベス
【原書房】
山田正紀
定価 1,995円(税込)
2003/9
ISBN-4562036834
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
桑島 まさき
評価:A
山田風太郎の歴史小説を読んでいるような面白さ! 歴史を熟知している者ならではの奇想天外なストーリーは、作家としての想像力を自由自在に駆使し、痛快でリアリティーに富み、小説のみならず歴史への好奇心をも抱かせる。
そもそもイギリスの生んだ世界の大作家、シェークスピアほど謎めいた人はいない。あれほどの人物の過去の一部が何故、空白のままいまだ解明されないのか。作者はそこへ目をつける。日本史上の大事件「本能寺の変」を絡み合わせ、シェークスピア(シャグスピア)が“日本にいた”という大胆不敵な設定を用意する。そして本作の主人公である織田信耀と親交を結んだ彼が謀反劇に巻き込まれる。つまり、謀反劇を目の当たりにしたシェークスピアが、後日、偉大なる劇作「マクベス」を生み出したという仮説をたてるのだ。
うう〜ん、これは日本史研究家たちへの挑戦ではないか。しかし、もはや私は作者の新説に賛成だ。小説の中に時々作者が入ってきて説明する構成は現実へと戻されるので好きではないが、作者の新説を裏付けるために必要不可欠な要素だと考え目を瞑ろう。傑作!
藤井 貴志
評価:D
織田家の傍系につらなる人物が主人公。多くの歴史ミステリーがそうであるように、本書にもいかにも妖しげで一癖ありそうな登場人物が何人も登場する。各セクションは前半でこうした人々によって謎かけがなされ、後半戦でその種明かしがなされるのだが、どれも今ひとつピンと来ない。というか、謎そのものがまったく「気にならない」。
また、これらの「謎かけ(≒ミステリー)」は、いずれもストーリー上において必然性のあるものではない。「じゃぁ何?」という話にもなるが、「そろそろこの辺で謎の1つもあったほうがいいだろう……。うむ」という意図があるのかどうかは知らないけど、どうもそんな感じで“イベント”が連なっていく感じがした。
物語はやがて日本の戦国史上最大のイベントとリンクしていくが、物語自体が小粒に思えてしまうため、歴史上重要な“あの”事件とは不釣り合いな印象を受けた。
古幡 瑞穂
評価:B
ネタばれになってしまったら申し訳ないのですが、若かりし頃のシェイクスピアが実は日本に滞在していて、織田信長の甥と色々な事件に巻き込まれていた!さらに本能寺の変の本当の意味は!?という設定に基づくお話です。どうせ作り話をするならなるったけ壮大な方がよい!という希望を叶えてくれる話でした。ミステリとして読むとトリックや展開はバカミスの部類に入りそうなのですが、それを取り巻く仕掛け(挿絵が入っているところとか、狂言のツボを押さえているところとか)が興味深いのであまり気になりません。
一つ一つの事件は割と鮮やかに幕が引かれます。でも全体の謎が私の中でどうもまだしっくりこなれません。読み方が甘いのか、知識不足が原因なのか…?あとネタばれになるので詳しく書けませんが、あの人と最後に出てくるあの人は同一人物にしてはキャラクターが違いすぎないか?とかまだ悶々としているのですよ。これも作者の術中なのかもしれませんけどね。
松井 ゆかり
評価:B
ちょっと(と言っても私が最後に読んだのは15年くらい前のことだが)目を離していた隙に、山田正紀という作家はこんな小説を書くようになっていたのか。以前はばりばりのSF者という感じだったと思うが。近年ミステリーに関するランキングの類いで上位に名前が挙がるようになっているのを「そうなの!?」と思ってみていたのだが、いやはや驚きました。
時は戦国の世、織田信長の甥の側近く仕える紅毛人シャグスペア。その実態はかの英国の偉大なるシェイクスピアだった…。かの有名な戯曲に題材をとったと思われる設定、その中で不可解な殺人事件や謎解きがあったり、史実の新解釈も披露されたりと、まさに野心作である。時代がかったしゃべりも、たいして苦労もせず読み進むことができた。
ただ、あまりにも奇想天外な内容に感じられて、いまひとつのれなかったのも事実。シャグスペアと猿阿弥の役割がかぶってるような気もしたけど。
松田 美樹
評価:A
織田信長が統治する時代に、あのシェイクスピアが日本に来ていた!?という変わった設定のお話です。信長の甥・信耀とジャグスペア(シェイクスピア)、道化師・猿阿弥の3人が出会うミステリ。
時代に合わせて、台詞は「信耀様はいずこにおわすや」などなど古めかしい言葉遣い。最初は読みづらいかな?と恐る恐る手に取りましたが、だんだん言葉の調子がぴたっとハマり、彼らが現代語で話してた方が違和感を感じただろうなと最後は思うまでになりました。
ミステリについては、この時代だからこそできるトリックがあり、時代小説が舞台だとこういうことができるのねと感心。不思議な能力を持つ人物たちが魅力的に映りこそすれ違和感がなかったのも時代背景を味方に付けた作者のなせる技でしょうか。
三浦 英崇
評価:C
数々の悲劇や喜劇を書き残した偉大なる文豪シェークスピア。しかし、彼の人生にはあまりにも空白の期間が多く「実は同時代の他の作家のペンネームなのではないか」といった疑問があります。この作品は、そんな問いに対する、作者一流の鮮やかな解答を示しています。
織田信長の甥・信耀に仕える修道士・シャグスペアの見聞きした数々の怪異が、戦国時代最大の謎の一つである「本能寺の変」へと収束してゆくさまは、まさに、大文豪の描いた数々の悲劇そのもの。シェークスピアの諸作品の台詞を要所に散りばめるなど、端々に見られる芸の細かさは、さすが山田正紀、と感嘆しました。
ただ、ちょっと気になったのは、作品自体の雰囲気を、シェークスピア悲劇に仕立て上げようとするあまり、「本能寺の変」以前の個々の事件の作り込みがいまいち弱い点です。好きな作家なだけに、採点は少し辛めになりました。