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国境
国境
【講談社文庫】
黒川博行
定価 1170円(税込)
2003/10
ISBN-4062738600

  児玉 憲宗
  評価:AA
   ひと雨ごとに寒さが増す。こんな季節にもってこいの熱い作品と出会えた。  まずは見事な取材力に脱帽である。なにせターゲットは、世界で一番不自由な国なのだ。私たちの物さしでははかりきれない常識が溢れるあの国である。「北朝鮮」を舞台にすることで既にドキドキ感を倍増させる。  この地で縦横無尽に活躍するのは最強にして最凶である最狂コンビだ。暴力団幹部の桑原は、極めて粗暴な性格で喧嘩が思いっきり強い一匹狼。世に怖いものなどない極道の中の極道である。建設コンサルタント業の二宮はヤクザの父を持つもののいちおうカタギ。食いものとお金にうるさいお人好し。少し臆病な面もなくはないが、やる時はやる男だ。そして彼らの敵は、泣く子も黙るヤクザから大金を騙しとった命知らずの詐欺師である。危険な場所で危険な事件に巻き込まれる危険な男たち。最初から最後まで衝撃的でスリリングな展開が続き、息をつく間もなく楽しめる。悲惨な場面が多い中で、主役ふたりの大阪弁でのやりとりは、なぜか笑いを誘う。内容は、文庫の重さよりもずっしり沁みて、文庫の厚さより熱い。

  鈴木 崇子
  評価:A
   800頁以上の長編にもかかわらずあっという間に読めてしまった。そのわけは…、  まずは、登場人物が生き生きしていて面白いこと。詐欺師を追って北朝鮮に潜入した大阪の2人組、桑原と二宮。何といっても極道桑原の大胆不敵なおっさんキャラが最高だ。建設コンサルタント二宮との対照的な組み合わせが笑える。二人を手引きする中国人の李さんのキャラも素晴らしい。  次に、拉致問題で大きく報道される以前に、北朝鮮の状況を様々な資料をもとに丁寧に描き出しているところ。そして登場人物のセリフを借りて国境の意味するところを描いている。  最後に、海外(または国内)を旅した経験より、大阪弁の団体(2人以上)がいればそこはすでに大阪である、という法則があるのではと思っているのだが…(あくまで個人的見解、ごめんなさい!)。たとえそれが北朝鮮であっても例外ではないらしい(小説の中では)。この強烈な二人組と北朝鮮というおよそかけ離れたものを結びつけ、ひとつのエンターテインメントを作り上げているところがすごい。このコンビならどこででも活躍できること間違いなし!

  高橋 美里
  評価:B
   「疫病神」で馴染みとなったヤクザコンビ(桑原・二宮)が復活した本作は金を騙し取られた詐欺師を追ってなんと北朝鮮まで。この勢いっていったら本当にすごい。北朝鮮の描写もすごいのだけど、主人公二人の走りっぷりが半端じゃないです。面白いのだけれども、イマイチじっくり読めなかったのは多分登場人物のせいではなく、物語が複雑になっているせいだと思います。怖いもの知らずで走りつづける2人と現実を突きつけられる北朝鮮。十分楽しめる一作だと思います。

  中原 紀生
  評価:B
   ヤクザを父親に持つ建設コンサルタント二宮と、真正のヤクザ桑原のコンビが、詐欺師を追って二度の北鮮行きを敢行する前半は、冒険小説としてよりもむしろ一種の情報小説として出色の出来映え。たとえば北朝鮮の人民は三つの階層に分類されていて、それは平壌に住める「トマト階層」(皮も身も赤い)と山間奥地や僻地に住む「ぶどう階層」(皮も実も赤くない)、それからこのどちらにも属さない「りんご階層」(皮は赤いが中身は白い)の三つだとか、平壌にも日本のヤクザに似た人種がいるとか、雑学的知識も織り交ぜながら、「パーマデブ」が支配する異様な国の実態をリアルに描いている。後半は、関西を舞台にヤクザや詐欺師、実業家に政治家、悪徳警官が入り乱れてのアクションもので、それはそれでスピーディで心地よい読み物なのだが、でもやっぱり前半との間に微妙なミスマッチがある。でも、たっぷり二冊分読んだと思えば、それはほとんど気にならない。

  渡邊 智志
  評価:A
   小難しい詐欺のからくりやややこしい人間関係はすっ飛ばして、とにかく誰かを追って北朝鮮まで行かなければならなくなったのだ。今でこそお茶の間の話題の中心を占める巨大なナゾの国家だけれど、当時だってブラックボックスであったことには変わりはないのだし、そんな得体の知れないところに素人(?)が徒手空拳で乗りこんでゆくのだから、そのハラハラドキドキ感がアクション・サスペンス・ミステリーとして一級のモノにならないわけがないのだ! …お話としては破綻しています。展開上、主人公たちがかの国と日本とを2往復するというのは読者の集中力を欠けさせるし、追っているターゲットを捕まえてそれで一件落着というわけでもない。もちろん社会派のドラマではないし、100パーセントすっきりするほどの結末が待っているわけでもない。それでもやはり、異世界に異物を放りこんだときに起こる波紋をシミュレートしたこの小説は掛け値なしに面白い!