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勝手に目利き
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文庫本班

冷たい心の谷
冷たい心の谷(上・下)
【ヴィレッジブックス 】
ライブ・バーカー
定価 (各)893円(税込)
2003/10
ISBN-4789721353
ISBN-4789721361

  池田 智恵
  評価:A
   ホラーというよりスペクタクルと表現したいです。賛美の意味で。ハリウッドは出るわ、絶世の美女は出るわ、乱交パーティーは出るわ、お城は出るわ。悪魔は出るわ・・。小道具そのものはよくありそうなものばかりですが、(整形手術に失敗したスター男優とか)広げる風呂敷の大きさは並じゃないですね。なんたって登場人物は最後に「悪魔の国」に出向くことになるんですから。「アトラクション盛りだくさん!」の冒険小説ですね、まるで。その冒険の勇者に当たる人物が、スター男優の追っかけをやっていた冴えない中年女性というところも、なかなかおもしろいです。唯一つっこみどころがあるとすれば、ホラーなのに全く怖くないということでしょう。でも、キリスト教徒ではない人間が悪魔って聞いてもピンとこないですもんねえ。

  児玉 憲宗
  評価:B
   美貌を維持するために美容整形を繰り返し、週末は妖しいパーティーに溺れる。ハリウッドスターが持つ「別の顔」の描かれ方は衝撃的だ。彼らの持つ価値観、彼らが抱く欲望は明らかに常軌を逸していて気持ち悪い。  そんな彼らが、あの屋敷のあの絵によって、さらに狂気の世界へと迷い込んでしまった。暗く深い交錯の世界。恐いというか気持ち悪いというか。嫌悪感すらおぼえるのになぜか排除したい気持ちよりも惹きこまれていく感じの方が強い。これは、もはやハリウッドの亡霊たちと同じ感覚に陥ったか。トッドや多くの亡霊たちと同様、冷たい心の谷から抜け出せなくなった自分に気づく。この作品の感想はきっとうまく伝えられない。感想を誰かに話すことが躊躇われる不思議な読後感だ。

  鈴木 崇子
  評価:A
   荒唐無稽、奇想天外、B級ホラー映画みたいにとんでもない話だと思いつつ、一気に読んでしまったではないかー。永遠の美しさに執着し退廃の世界に浸る、美人女優カーチャの妖しいことエッチなこと! 整形に失敗したハリウッドスター、トッドの愚かなこと犬好きなこと! 捨て身でトッドを守ろうとするファンクラブ会長、主婦タミーのパワフルなこと滑稽なこと! 実在のハリウッドスターも、亡霊も、亡霊と動物のハーフも入り乱れ、収拾がつきそうもないのだが、恐ろしい伝説の部屋、壁画の秘密など、強烈なアイテムがごっちゃ混ぜになってヘンなバランスを保っている。  この世で一番しぶといのは? 最後に世界を救うのは? …おばさんパワー万歳!(混乱のままに、圧倒されて、評価A)

  中原 紀生
  評価:C
   狡猾だが愛らしい二つの目をもったルーマニアの美少女は、ハリウッドの超売れっ子女優に成長した。コールドハート・キャニオン(冷血峡谷)と呼ばれる郊外のその屋敷は、古い修道院から部屋ごと買い取られたタイル画が敷き詰められていた。そこには、悪魔の妻リリスがつかさどる淫猥で無惨な地獄の世界が描かれていた。──この物語の発端は、ふるいつきたくなるほど蠱惑的で、その後に続く異形の怪物たちが跋扈する夢魔の世界の出来事はおぞましくも印象的(「死者とのセックスがこういうものだとしたら、人生にはまだ学ぶべきことがたくさんある」)。でも、いかんせん登場人物たちにからきし魅力がないので、心底陶酔できない。

  渡邊 智志
  評価:AAA
   2003年文庫本の最高傑作に決定しました! もう決定したので後から出版される文庫本さんゴメンナサイ。これからこの本の凄さや面白さをあちこちで吹聴することにします。ものがものだけにゲテモノ好きと誤解されかねませんが、面白いものは面白い。映画に関わっている著者が映画に関わっている人々を実名虚名とりまぜて描いているのですが、描写がとても映像的で、文章を読んでいるだけなのに映像がすべて目の前に浮かんできます。非現実的な画なのに、カメラワークや間のタイミングや誰かが振り向いた眼前で繰り広げられるショッキングな場面転換など、ありありと思い浮かべることができるのです。少ない登場人物の描き分けも完璧で、著者自ら「神話を丸ごと創造した」と述べているとおり、世界観の構築も素晴らしい。ぐいぐい話に引きこまれ、朝まで読むのをやめられない。掟破りの「AAA」評価でこの感動を表現します。ホラーに偏見を持っている方も是非!