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ツ、イ、ラ、ク
ツ、イ、ラ、ク
【角川書店】
姫野カオルコ
定価 1,890円(税込)
2003/10
ISBN-4048734938
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  川合 泉
  評価:A
   題名から、登場人物は当然大人だと思っていたのだが、小学生の会話から始まったので面食らった。だが、読み進めていく内に、逆に全てを知ってしまった者達より、今から知ろうとする者の方がよほど妖しさを秘めているのかもしれないと感じ、納得した。物語は、単純に言えば、女子中学生と教師の恋というありがちなテーマなのだが、歳の割りに大人びた隼子、教師である前に男である河村、そしてその周りを固める統子、塔仁原、小山内先生等の役回りが絶妙なので、飽きさせない。登場人物のその時々の状況を、新撰組の事件に例えるなど小技が効いている点もかなりポイントが高い。背伸びして、自分の知らない世界への扉をこじあけようともがく登場人物達の気持ちは、全ての中学生が体験してきたことではないだろうか。今の中学生は、もうその先に行っているのかもしれないが…。

 
  古幡 瑞穂
  評価:A+
   いや、参りました。「恋はするものではなく、落ちるもの」というよく聞かれる恋愛言葉があるけれど、その言葉ではこの本は語れませんね。何より私の心を捉えたのは、ここで描かれている性愛の濃さ。
 大人のためのエロってのはその気になればそこら中で読むことが出来ます。でも小学二年生から始まる性の目覚めを描いたこの小説の方がある意味ずっと重くて、リアルでいやらしいの。中高生の頃、人を好きだと思ったその想いって今よりずーっと大きかったし重かったし、今になってみたら何でもないくだらないことでやきもきしてたんだなぁってのをぼーっと思い出させられています。綺麗事だけでない成長の過程を包み隠さず書いてあるところには好感が持てました。 エンディングというか終章にはご都合主義感もあるけれど、恋愛小説に食傷気味の方にもオススメできる、記憶に残る話です。

 
  松井 ゆかり
  評価:A
   この小説に関するいくつかの評などを読む限り、主人公の若さが話題になっているようだが、私にはそれほど瞠目すべきこととは思えなかった。描かれているのが“中学生の恋愛”ではなく、“中学生の性愛”とみなされるものだったからだろうか。確かに自分が14歳のときに、主人公隼子のような行動をとることは考えられなかったとは思う。しかし、14歳の自分は子どもだったが、同時に驚くほど現在と変わらない面もある。隼子とは誰にとっても、“こうなっていたかもしれない自分”の姿なのではないか。
 帯に「本年度最強の恋愛文学」とあるが、実際この小説にふさわしい称号だと思う。姫野カオルコさんが身を削るようにして書いたのだろうと想像される力作だ。残念ながら好きな作品とは言い切れない(先生と生徒の恋愛というのにあまり興味が持てない、河村の教師としての苦悩があまり読みとれない、最終章みたいな偶然ってあるのだろうかと疑問に思う、などの理由で)が、隼子の心の動きを描き切った姫野さんの筆力に脱帽する。

 
  松田 美樹
  評価:AA
   もっと若い頃に読みたかったなあ。例えば高校生の時。だって、この本は単なる恋愛小説ではなくて、恋や女や男を熟知した作者がそのペーソスを散りばめながら書いてるんだもの。今の私(31歳)が読むと「そうなんだよなあ」という共感しか浮かびませんが、もっと若い頃の私が読んだら「おお! 恋って、年をとるって、そういうことなのか!」と学べそうなことがたくさん書いてあります。例えば、男と女の老化の兆しはどこに表れるか、という部分はすごく共感してしましました。きっと以前は感じなかったところだと思うけど、今の私には「そうそう、正しくそうだ!」と何度もうなずいてしまう楽しさがありました。
 濃密なストーリー自体も勿論面白いです。終わり方もぴたっとハマってすっきりした気持ちになれるし、好きな作品です。誰もが通る人間関係や恋の道を説いた本。おすすめ!

 
  三浦 英崇
  評価:B
   14歳の頃の自分を思い浮かべてみます。どうしてあの頃の「俺」は、あんなにも傲慢で、残酷で、苛烈だったのだろう? それはたぶん、世界中を敵に回していながら、立ち向かう武器もない自分にできる、精一杯の戦い方だったのだろうな、と、20年経った今、そう思います。
 この作品の主人公・隼子もまた、世界中を敵に回したような気分を抱えながら、その戦いの手段として禁断の恋を選びます。戦況はあまりに絶望的で、34歳になろうとする私から見れば、風車に槍持って向かうドン・キホーテか、蝋の翼で太陽をめざすイカロスのような、狂気と悲哀に満ち溢れているように見えます。しかしその姿は同時に、純粋であり、高貴でさえあります。
 私とはあまりに戦闘手段の方向性が違うとは言え、人生に対して、14歳なりの真剣勝負を挑んだ彼女に、「戦友」としての親しみを感じました。
「俺」は確かに、あの時、あの戦場に君と一緒に立っていた。