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勝手に目利き
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ZOKU
ZOKU
【光文社】
森博嗣
定価 1,575円(税込)
2003/10
ISBN-4334924085
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  川合 泉
  評価:C
   簡潔に話をまとめると、悪戯の組織ZOKUと、それを取り締まる組織TAIとの、手に汗握る(!)攻防戦。著者・森博嗣氏が楽しみながら書いているなあというのが、行間からうかがえた。ZOKUの社員のやりとりは、「タイムボカーン」を彷彿とさせる。派手な衣装を身に着け、部下をいびるロミ・品川は、我儘な女団長マージョと言ったところだろうか。悪戯も、暴音、暴色、暴振等(詳しくは本編を読んで下さい)、本当に悪とは言えない、悪戯程度のものばかり。一番私が気に入った悪戯(!)は、第四話「当たらずといえども遠からず」での、ラッキーな未来を予測してくれる悪戯。実際に起こっても騙されないように気をつけなければ…。
 コミックタッチの斬新な小説。読みながら、頭の中にコマ割りが思わず浮かんできそう。本が苦手な人も、一度手にとってみては。

 
  桑島 まさき
  評価:C
   初めて読む作家の作品に接する時、ある種の緊張を覚える。他の作品をしらないので作風が徹底しているのか、都度様々な作風を意欲的に試みているのか、ユーモアが元々のものなのか作為的なものなのか、不明だからだ。本作は、面白いのかそうでないのか判断に困った。
 劇画の世界に登場してくるような人物設定はクスクス笑え、断片的なエピソードや交わされる会話は面白いのだが、全体的な話の繋がりが巧くいっておらず、沢山登場してくる割には人物たちのエピソードが後に活きていない。ならばそんなに登場させる必要があったのだろうかと思ってしまう。
 単にいたずらして世間を恐がらせることに興奮を覚える「ZOKU」とそれを阻止する「TAI」の対決を描いた物語だが、双方の〈存在意義〉が不明確なので理解不可能。それなりの〈信念〉に基づいた組織なら説得力が感じられ感情移入もできるが、〈目的〉も定かではない。軽さが売りの読み物だけに気負わずサラリと読んだ方が楽しめるかも。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   最近、どこもかしこも意味のあることばかりを目指してあくせくしているけれど、意味がないこと・無駄なことにこそ楽しさは宿るのかなぁ…と、そんなことを感じさせてくれる作品。私にとっては久しぶりの森作品だったのですが、この本ではいつもの堅苦しさ(小難しさ?)が取っ払われています。森さんの遊び心が作り出した空間の中で遊んできました。ってな読後感。
 悪の巨大組織って銘打つわりにはせこーい迷惑ばかりを重ねる「ZOKU」とそれを打ち破ろうとする正義の味方「TAI」の戦いの日々を描いてはいるものの、このヒトたち戦ってるんだか遊んでるんだか…
 その力の抜けっぷりと、ラストに読み手を包み込むノスタルジックな雰囲気がちょびっと癖になりそうです。
 そうね、物事に全て意味があるわけじゃないものね。

 
  松井 ゆかり
  評価:A
   大笑い。小説版“「タイムボカン」シリーズ”とでも言おうか(古。でも「今月のイチオシ」コーナーで大森望さんも書いておられましたね。私の脳内では、ZOKUのナンバー2であるロミ・品川の勇姿は自動的にドロンジョ様に変換されてました)。なんでここだけ哲学めいた台詞?という感じで幕を閉じる結末まで、全編超おかしい。 こういう会社で働きたいなあ。TAIでもZOKUでもいいや。ロミ・品川が憤っていたように、ギャル偏重主義が随所に見られるのが少々気になるが。
 最後に、恥を忍んでみなさまにご忠告を。この本の作者森博嗣さんを、森巣博さんだと思い込んでました。「あ、賭博小説の人だっけ」と勘違いしてしまい、いつギャンブルの話になるんだろうと思いつつ読み進んだのだが、結局最後まで気づかず。どうぞお間違えなきよう(そんな人はいないのか)。

 
  松田 美樹
  評価:C
   木曽川大安(変な名前だ)が率いるTAIと、黒古葉善蔵(こっちも変だ)が率いるZOKUとの、あまりに馬鹿馬鹿しい戦いのお話です。何のメリットもない悪戯をしかけるZOKUと、その悪戯を暴くTAI。暴笑族だの、暴音族だの本当に馬鹿馬鹿しい悪戯を大がかりでしかけてきます。例えば、起震器をしかけてあちこちで震動を起こすとか、静かなコンサートにスピーカーをしかけて笑い声を響かせて邪魔をするとか、そんな飽くなき戦いが繰り広げられています。
 うーん、とても森博嗣っぽいです。何だかよくわからない笑いのツボは、学生時代にありがちな内輪受けの話のような感じがします。仲間だけで笑ってる、そんな懐かしい記憶が蘇ります。ただ、その遊び心にノッてしまえば楽しめますが、ノレなければちょっと辛いかもしれません。

 
  三浦 英崇
  評価:D
   ヤケクソ気味に金を持っているブルジョアが、しょうもないことに湯水の如く金を使う。その使いっぷりのバカバカしさをネタにするというのは、コミックやゲームでキャラを立てるための定番です。
 従って、このネタを使うには、あえてそれを使うだけの勇気か、あるいは、今まで誰も思いつかなかった新たなアプローチを生み出す才知が必要となります。この作品は、前者です。よくぞここまで定番を貫いてくれました。その勇気は賞賛に値します。
 世間を騒がせはするけど、深刻に迷惑になるようなことはしない。そんな力加減で壮大な悪戯を仕掛ける謎の組織「ZOKU」と、彼らに対抗するために作られた「TAI」。二つの組織の対決は、回を追うごとに無意味さを増してゆき、遂に最終話では……
 小林信彦さんの「唐獅子」シリーズを髣髴させる決着が、どこか懐かしかったです。ただ、笑いに徹しきれず、どこかスタイリッシュであろうとする向きが感じられ、スカしてらあ、と思う個所がまま見られたのが残念でした。