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勝手に目利き
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亡国のゲーム
亡国のゲーム(上・下)
【二見文庫】
グレン・ミード
2003/12
(上)定価 1,000円(税込),ISBN-4576032143
(下)定価 1,000円(税込),ISBN-4576032151

  中原 紀生
  評価:AA
   周到に練りあげられた無駄のない構成。丹念に書き込まれた(まるで映画のカットをまるごと文章化したような)細部の積み重ね。適度に類型化されたわかりやすい人物群。物語の骨格をなす主要人物たちが奏でる対位法(ロシアの血が混じったチャチェン人テロリストのニコライ・ゴレフとパレスチナ人テロリストのカルラとその息子ヨセフ。FBI捜査官ジャック・コリンズと亡くなった妻子、そして現在の恋人ニッキとその息子ダニエル。これら二組もしくは三組の男女、親子の関係の対比。ロシア連邦保安局のクルスク少佐とゴレフとの友情。アル・カイーダのテロリスト、ラシフに対するジャックの憎悪。これら二つの感情の対比。高潔な合衆国大統領と邪悪なアル・カイーダの指導者との対比。)そのどれをとっても良くできた第一級の娯楽小説で、だから安心して著者の術中にはまり、時を忘れることができる。あらかじめ約束された大団円とカタルシスをめざし、緩急をつけながら頁を繰っていける。──著者覚え書きによると、この作品の第一稿を書き終えた直後に「9.11」の惨事が勃発したという。このできすぎた偶然に著者は動揺したかもしれないが、気にすることはない。たかが娯楽小説、リアルな世界の薄っぺらな表層と底知れぬ深層を抉ることなど、はなから期待していない。

  渡邊 智志
  評価:B
   原題("RESURRCTION DAY")も邦題もどこかで聞いたような話で地味な印象。ところが内容は、まさに今出版しなければタイミングを逸してしまうといったもので、これがバカ売れしなければ出版業界はおかしいんじゃないかと思うような生々しさ。時事問題を切り取って上手くシミュレーションされた小説なんだから、仮想の中で現実をオーバーラップさせて楽しむにはこれ以上のモノはないと思うんだけど…。うーむ、惜しいっ! いつの間にか現実の方が小説を追い越しちゃってる。これには驚きましたね。日常的にテレビのニュースで流れる情報はそれなりに驚くべき内容で、でもみんなそれに慣れちゃった。なにも知らないでこの小説を読んだら驚くような内容で手に汗握るんだろうけど、現実で十分驚いているから、この小説では驚けないし意外性も感じないんです。こんなに描きこまれているのにもったいないね。大統領が弱っちくてテロに屈服しがちなのが違和感ありです。