年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班

ラリパッパ・レストラン
ラリパッパ・レストラン
【文春文庫】
ニコラス・ブリンコウ
定価 720円(税込)
2003/11
ISBN-4167661500

  延命 ゆり子
  評価:C
   あまりにも私の好むところとは別のベクトルにある作品のため、採点不可能……。そこで、私の思うこの作品の美点を見つけ出し、羅列してみることにしました。(1)あらゆるドラックをあらゆる人が摂取するため、その世界に足を踏み入れたい人にはドラックの種類・効果など参考になります。(2)拷問の方法について詳しくなります。特に直腸にナイフを突っ込み大腸を取り出して紐の替わりにし、その人を椅子に縛り付ける、などと凡人には考え付かないアイディアは必見です。(3)ジェロントファイル(老人好き)の人の生態について知ることができます。友人の母親とヤルときの姑息な手段など、参考になります(自殺すると脅し、ピストルを口にくわえたまま脱がす、など)。他にも友人関係がガラガラと壊れていく様子やドラックを吸飲するためにきちんとした列を作る様子のおかしみなど、見所満載。皆さん、是非読んでみてください。そしてこの小説の面白さを誰か私に教えて……!

  児玉 憲宗
  評価:B
   とんでもないレストランなのである。オーナーは元ギャングの凶暴亭主から持ち逃げした金でレストラン経営を開業しようとする大胆不敵な女だ。シェフはテレビにも出演する変態ドラッグ野郎。ボーイ長はカード詐欺の常習犯。もちろんクスリ漬け。彼らのまわりをうろちょろする怪しいクスリの売人。オーナーの息子も父親と手を組んで麻薬の密輸に手を染めていた。
 そんなレストランで拷問された死体が見つかるのである。そして、しっちゃかめっちゃかな展開へと突入するのである。決して冷静には読めない。このことをどう評価すればいいのだ。
 この作品のもつめちゃくちゃさは、眠気を抑え、興奮させるには充分な効果だ。コカインのように気分が高揚し、マリファナのように恍惚感を与え、LSDのように、幻覚や妄想をかき立て、さらに、とれもきもちよくなっらのれわけわかな、わけらわからな……。

  高橋 美里
  評価:B
   店に行ったら拷問された男の死体があった。それは開店前日のこと。
そんなことが普通にこの作品ではおきている。
元・ギャングの亭主の金を盗み取って、ロンドンでレストラン開業を企てる女と、その女に雇われた薬漬けでカード詐欺の常習であるシェフとボーイ長。
こんな組み合わせで企てがうまくいくわけがない。どの登場人物もすごい勢いで自分の世界を走り抜けていく。それでも物語として成立しているのはやはり作家の力なのだとおもう。読みやすくわかりやすい小説なので難しいことを考えなくても読めます。

  中原 紀生
  評価:C
   「一種独特なアホ」のホギーと「オリンピック級の精神異常者」のチェブのいかれたコンビは、いつもラリっていて危なげでどうしようもない人物だけれど、妙に心に残る。小麦文明論をのたまう売人のナズにしても、スーザンやジュールズにしても、大虐殺事件にまきこまれるその他大勢の人物にしても、いずれも妙に気にかかる。ストーリーはまるで面白くないし、読み終えてなんの感銘も残らない。ただ独特の雰囲気、ある時代の気分のようなものは濃厚に漂っている。それだけで充分なのかもしれない。誰と名ざすことはできないが、しかるべき男優、女優を得て映画化されたならば、珠玉の名品になったかもしれない。「ラリパッパ・レストラン」という邦題は、よくできているとは思うけれど、ちょっと損をしているのではないか。

  渡邊 智志
  評価:C
   ずいぶんと忍耐力の要る小説でした。なーんにも起こらないんだもの! カタカナの名前に手っ取り早く慣れようとして、映画を見ている気分で適当な役者を当てはめて読んでいたのですが、こんなにたくさんの種類のキャラクターがそろっていたらひともんちゃくあってもいいはずなのに、なーんにも起こらない! 死体があってもギャングが来ても、けっきょく最後はみんな薬をやって、前後不覚のままひとつの章が終わる。で、目覚めたら次の章。また薬。章が終る。まったく話が展開しないしなーんにも起こらない。これ、どういう読み方をしたら楽しめるの? ラリってるだけなの? それにしてももうちょっとやりようがあるんじゃない? 映画にもなったチャック・パラニュークの『ファイトクラブ』もいまいちパッとしない小説だったけれど、話に起伏があるだけこれよりはマシ。比べるもんじゃないけど、物語ることを放棄して薬に逃げて、終わったつもりはひどいよ。