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ルールズ・オブ・アトラクション
ルールズ・オブ・アトラクション
【ヴィレッジブックス】
ブレット・イーストン・エリス
定価 840円(税込)
2003/9
ISBN-478972106X

  児玉 憲宗
  評価:B
   これは究極のモラトリアム小説である。そう呼ばずしてなんと呼ぼう。
 真実を探してさまよう若者たちがここにいる。彼らはまだ本当の自分を知らない。ドラッグの快楽に身を任せ、理性を捨て去ってももう一人の自分を捕まえられない。アルコールに溺れても虚無感は拭えない。セックスを重ねてもまことの愛はわからない。一見、欲望のまま好き勝手に生きているようで、実は、虚しさや苛立ちや悩みに押しつぶされそうな彼らがいる。弱々しい悲鳴さえ聞こえる。
 主人公を特定せず、ひとりひとりを交互に一人称で表現した手法が見事に効果を発揮している。「蒼い」というパワー、「可能性」というパワー、「無鉄砲」というパワーがあふれる「若気の至り」物語なのだ。

  鈴木 崇子
  評価:C
   虚しい感じがよく出ている、というか全編虚無感で覆われている小説。80年代、寮生活を送る《裕福な》アメリカの大学生の日常を描いたということだが、その乱れぶりはすごい。そういえば自分も80年代に大学生活を送っていたはずだが、国や環境や境遇の違いか、まるで別世界だ。ストーリーらしいものは特になく、出来事の羅列だけ。ひたすらアルコール・ドラッグ・セックスに明け暮れる日々。肥満その他成人病へ即直行できそうな不健康な生活。精神的にも退廃・堕落を極めていて、寮の中で、男と女、男と男、女と女がくっついたり別れたり、裏切ったり裏切られたりしている。
“俺たちがこうして、ここにいる、そのことが重要”という登場人物の言葉。刹那に生きるしかない、その時代の閉塞感や若者の虚無感を表現しているんだろう。社会の病理だと解釈できなくもないが、所詮は恵まれたお坊ちゃまお嬢さまの甘えじゃないのって気もする。読後感はよろしくない! 自分まで不健康な気分なってしまいそうなので、この評価。

  中原 紀生
  評価:B
   気のせいかもしれないけれど、初めてヌーベルバーグ映画を観たときの印象がよみがえった。名著『〈映画の見方〉がわかる本』の著者町山智浩さんが書いた解説によると、この作品には、ジェームズ・ジョイスの「意識の流れ」とドストエフスキー(『地下生活者の手記』)の延々と続くモノローグとヘミングウェイの一人称の語りという、三つの文学的伝統が脈打っているという。まことに鮮やかな分析で、この比類ない言語体験をもたらしてくれる作品世界の質を見事に言い当てている。ただ、やや読み急いだため、その世界にじゅうぶん浸りきることができなかった。(読む時と心身状態を得ていたならば、きっと忘れ難い作品になっただろうと思う。)

  渡邊 智志
  評価:C
   読後感ゼロ。印象無し。なにひとつ残っていない。きれいさっぱり忘れてしまいました。
表紙を見てもあらすじや解説を読んでもぱらぱらページをめくっても、なーんにもよみがえってこない。ひどくつまらなかったので、さっさとメモリーから消去されちゃったみたいです。世代でしょうか。80年代は語られるにはまだ未成熟で記憶が新しすぎる時代なのでしょうか。登場人物たちの語りになにひとつ共感できないんですね。どいつもこいつも自分勝手なことばかり言って、排他的な自己愛に満ち満ちている。その嫌らしさがゆえに相手を傷つけたり傷つけられたりしながらも、なにひとつ学ばない。こんなにひどい連中ばかりだったのかなぁ? …と思ったら、この小説は80年代に同時代を描いた小説なんですね。きちんと時代を切りとったものならともかく、こんな作者の脳内妄想を何人もが連続して語るだけの話を、20年近く経った今翻訳して、意味があるんでしょうかね。