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勝手に目利き
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図書館の神様
図書館の神様
【マガジンハウス】
瀬尾まいこ
定価 1,260円(税込)
2003/12
ISBN-4838714467
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  川合 泉
  評価:A
   装丁や題名から、真面目で退屈な本かと思ったが、そんなことは全くなく、自然に入り込めた。バレーボール部の顧問になるべく教師を目指したにも関わらず、文芸部の顧問になった、高校の国語講師の早川清。不倫相手の浅見さんと過ごす時間と、文芸部のただ一人の部員、垣内君とのやりとりを中心に毎日が過ぎていく。初めはバカにしていた文芸部にだんだんと真剣になっていく清に、私自身も入り込んでいった。明らかに22歳の清より大人びた垣内君が、いい味を出している。周りの人との触れ合いの中で、心の傷を少しずつ癒していく清の強さを見習いたい。
有名な文学作品がちょこちょこと挿入されているのも嬉しい。165ページと短いながらも、心のあったかくなる一冊。一時間程でさっと読めるので、是非手にとってみて下さい。

 
  桑島 まさき
  評価:B
   軽快な文章で爽やかな印象を残す。
 思いもよらず学生時代のクラブメイトを死なせる原因を作ったこと、不倫相手の妻に子供ができたことで“裏切られた”と思うこと、は自分のせいだろうか。自分が「正しく」ないからだろうか? 世の中には「正しい」とか「正しくない」では割り切れない事が多々ある。そんな想いを引きずりながら〈都会の少女〉から〈田舎の女〉へと転身した主人公の青春は、仕方なく引き受けた文芸部顧問になったことで、人生に折り合いをつけていく。
 部員一人、廃部寸前の文芸部で、部長の垣内君との交流が味わい深く淡々と語られる。主人公よりも達観したオトナの垣内君のキャラに惹かれる。二人でせっせと「朝練」と称し図書館の本の整理をし、その後グラウンドを走るシーンなんか、その心地よい達成感を思うとメロメロ。これぞ青春だ! 期せずして〈青春〉を降りなければいけなかった主人公は、海辺の田舎の高校で再び青春を生き再生していくのだ。“文学は僕の五感を刺激しまくった”という垣内君のスピーチも感動に値する。いい出会いは感動を運んでくるものだ。

 
  藤井 貴志
  評価:B
   (こう言っては失礼だが)期待に反して楽しめた。読み始めに感じた「つるんとして抑揚のなさそうな話だな……」という第一印象はある意味では裏切られなかったが、その抑揚のなさが不思議な癒し効果をもたらしてくれたようだ。登場人物も最小限に抑えられており、いい意味で頭を酷使せずに読むことができた。
本作は、本人の希望に反して文芸部の顧問になった新任の女性教師の1年間を描いている。家庭を持つ恋人“浅見”とのエピソードは予想通りの展開で新鮮さを感じなかったが、その一方で、一介の文芸部員にすぎない垣内の飄々とした存在感は際立っていた。浅見の前では素の自分を出せない主人公が、垣内の前で素の自分をさらすことに開放感のようなものを感じてゆく様子は爽やかで心地いい。あまり堅苦しいことを考えず、ゆったりとした気持ちで読めば、本書の「癒し効果」の恩恵にあずかれるはず。

 
  古幡 瑞穂
  評価:AA
   良い小説に出会うのはいつだってうれしいけど、それが新人作家のモノだったりするともっと嬉しい。しかも読了したままの爽やかな気持ちで1日を始められるのは幸せなこと。この本はそんなすべての要素を満たしてくれました。今年出会った作品の中では(といってもまだ2月だけど)ベスト小説!
 設定の細かい疑問点や、「そんな爽やかな男子学生なんて今時いるのか?」などの突っ込みたくなるところがないわけではないのですが、そんなことはどうでもよし。不倫というちょっと泥臭い恋愛を絡めたことで、赤面したくなるような「青春」描写にリアリティを持たせたところも気に入った点でした。
 主人公の清(きよ)はある挫折体験を抱えているのですが、ねじれていないのです。だからちゃーんと高校生の垣内くんの意見にも耳を傾けられる。こういう真っ直ぐさがあれば必ず新しい一歩を踏み出せるんですね。高校生の頃の瑞々しかった気持ちと、ほろ苦い恋の思い出をたっぷり思い出させてもらった幸せな読書時間でした。

 
  松井 ゆかり
  評価:A
   文学が好きな垣内くん。私にとって、まさに好みのストライクゾーンしかもど真ん中の少年像であった。“周りの賛同を得られずとも、自分の信じる道を進む”というキャラクターには、最も弱い。垣内くんは、強がってでもなく無理をしてでもなく、のびのびとその姿勢を貫いていて、ほんとうに好感が持てた。
 私が中高生の頃、「ネクラ」「ネアカ」という言葉が流行っていた。読書が趣味なんて人間はネクラの典型。当時からかなり本好きな方だったけれども、自分が「文学が好き」などと何の躊躇も気後れもなく言い切れる10代だったとは思えない。ああなんと、若き日の名残りの純粋さを思い出させる小説だろう。生徒と先生の恋、などという安易な(とも限らないですが)展開にならないのも好ましい。
 そう、この本を読んで、どうぞみなさんも思い出してください。本とともにある人生がなんて素晴らしいのだろうということを。

 
  松田 美樹
  評価:A
   本屋さんでナンパされてみたい、と思っていた時期があります(どうしてなのかは自分でも謎)。すっかり忘れていた願望を、この本を読んで何故か思い出しました。主人公・清(きよ)が出会うのは、本屋じゃなくて学校の図書館。そして、相手は教え子。1人っきりの文芸部員の男の子と、バレーボールに青春を賭けて挫折した清との、一生懸命だけど頑張り過ぎない青春のお話です。傷付いた心が、ゆっくりゆっくりと元気を取り戻していくストーリーに、やさしい気持ちになりました。素直に、主人公に頑張れ!とエールを贈りたいです。挫折も悲しいこともあるけど、真直ぐな気持ちで生きていれば大丈夫!と言ってあげたい、そんなほかほかした温かい気持ち。友達にも読んでほしくなって、本読み仲間にすぐにおすすめメールしました。
 本当に爽やかな爽やかな青春小説です。素直に読めて、明るく前向きな気持ちになれます。安心して手に取って下さい。

 
  三浦 英崇
  評価:A
   自分にとって不本意な状況に投げ込まれた時、人はえてして、「これは私の本来の姿じゃないんだ」とうそぶきながら、現状打開のために動こうとしないものです。しかし、結局、「天は自ら助くる者を助く」なんですよね。
 分かっちゃいるけど、そんな簡単に気持ちを切り替えるなんて無理、という、生真面目で不器用な貴方。この作品をお奨めします。
 青春のすべてを注ぎ込んだバレーボールをやめざるをえなかった主人公・清は、バレーの指導ができるんじゃないか、という希望を胸に高校の講師になりますが、なぜか、縁もゆかりもない文芸部の顧問にさせられてしまいます。しかし、文芸部のたった一人の部員・垣内君との、図書室で過ごした1年間が、彼女を変えていきます。
 この書評の冒頭で、「人はえてして」などと偉そうに書いてますが、本当は私自身のことです。「神様」の居場所は、駆けずり回って探さないといけないんですね。反省しなきゃ。