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ヘビイチゴ・サナトリウム
ヘビイチゴ・サナトリウム
【東京創元社】
ほしおさなえ
定価 1,575円(税込)
2003/12
ISBN-4488017010
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  川合 泉
  評価:C
   コバルト文庫が得意とするような、オーソドックスな学園ミステリーもの。中高一貫の女子校から次々と自殺者が出る。その背景には、男性教論の書いた一冊の小説が関わっていた。この事件に、学園の生徒である双葉と海生、教師・高柳が各々の視点で真相に迫る。読み進めば読み進むほど、ミステリーの糸は複雑にからまっていき、最後まで自力ではときほぐせなかった。誰が犯人かを推理するというよりは、登場人物の心理を解き明かすことに重きが置かれている感じがした。フィクションだから、深く突っ込むべきことではないが、学園ミステリーもので気になるのは、多くの死者がでても、警察など外部の人間がほとんど動かないことだ。まるで、学園という大きな密室が存在するかのように。そのことがミステリー感をより高める。女子中、高生にお薦めしたい一冊。

 
  桑島 まさき
  評価:AA
   中高一貫教育の女子高の美術部員たちが主な登場人物。高校三年生から中学一年生まで五歳の開きがある。大人の階段を登りつつある思春期の少女たちにとって一年という開きは、実に大きい…。
「死」に“魅せられた”というより生きる(=大人になる)ためにイノセンスを失うことを拒絶した少女たちの複雑な感情が、錯綜した関係性によって、「死」をよび込んでいく。その感情は体育会系ギャルだった私にはしっくりこない。思春期特有の少女たちのみずみずしい感情は懐かしく感じはするが、反面、その時期特有なカミソリの刃のように鋭利で、薄いガラスのように脆く、危うい感性にハラハラした。
 海生と双葉による謎解きと、殺された教師の同僚である高柳による謎解き…つまり、大人と子供という二つの視点によって靄のかかった事件の真相が解明されていく。境界線の「あちら側」にいってしまった大人の高柳に、忘れてしまった視点を、「こちら側」にいる少女二人が補完していく。
 著者初のミステリーは、詩人特有の言語感覚というよりも、感覚的にミステリアス!

 
  藤井 貴志
  評価:C
   なんとなく「どこかで読んだことがあるなぁ……」といった印象が先立つ学園ミステリー。女子高生の自殺をきっかけに、いくつもの事件が絡み合い、事件は思いがけない展開を見せる。自殺した女子高生の後輩にあたる2人の女生徒が事件解決の重要な役回りを演じるが、こうした“当事者の周囲にいる好奇心旺盛な人”の活躍はテレビドラマなどでも広く用いられている手垢の付いた手法であり、ミステリーの「王道」というよりは、便利な登場人物がプロットを助けてくれるといった意味合いも感じてしまう……。
そうは言っても、この手の本は、ひとたび読み始めると次から次に“イベント”が発生するので、飽きることなく読み進めることができる。女子中高生同士の“不思議な友情”の描写もリアルで、違和感を感じることなく物語に惹きこまれた。新鮮味という点ではやや物足りなかったが、「?」や「!」を幾度も感じることはできた。個人的には装丁や製本仕様も好み。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   墜死事件、盗作事件と立て続けに謎が提示され、一癖二癖ある登場人物が次々と出てくることから冒頭部分でぐぐっと引き込まれます。女子高生を探偵役に据えているのと舞台が学校の中だということで、ライトな学園サスペンスものだと思っていたのですが、提示される謎の絡まり方は極めて複雑で、さらっと読める類のものではありません。
 特に作中作がいくつも出たり引っ込んだりしたあたりは、一気に読まないと何がなんだかわからなくなってしまいます。後半部分は本格度が高いので、本格ミステリファンなら喜べるかな?
 読後印象に残るのは、死者ばかり。特に江崎ハルナの狂気に近いほどのカリスマ性には強いインパクトを感じました。でも脇を固める探偵役(そもそもこの話の主人公は誰なんだろう?)や後輩・友人たちの個性が今ひとつ薄いので、事件決着したのちも新鮮な一歩を踏み出せた気がしないのが残念なところです。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   詩人とミステリー。一見ミスマッチだが、実はベストマッチという気もする。“詩”と“死”はとても近いものがあるように思えるからだろうか(あるいは私が詩に関して無知だからだろうか)。アガサ・クリスティの翻訳を多く手がけられた田村隆一さんが詩人でもあったことも大きい。
 詩人ほしおさなえさんの初のミステリーということだが、力み過ぎず、落ち着いた筆致で書かれた作品だと思われる。大型新人の出現かもしれない。しかし、眠さをこらえた状態で読むと、頭がこんがらがる(そんなときに読む方が悪いのだが)。特に後半ネット上の謎の人物たちが出てくると、とても混乱する。それと、ちょっと犯人の目星がずいぶん早くついてしまった。伏線の文章が赤線が引いてあるくらいわかりやすかった気もするんだが。
 しかし、現代の女子学生を描きながら、フランスのヌーベルバーグ映画を観るような独特の雰囲気を持った小説であった。今後のご活躍が楽しみである。

 
  松田 美樹
  評価:C
   中高一貫の女子高を舞台に、登場人物の名前が海生(みお)だの双葉だのハルナだのが続々と出てくるので、最初は少女マンガ風サスペンス?と思って読み始めましたが、なんのなんの、かなり本格的ミステリ。軽い気持ちで取りかかったので、途中で誰が誰やらわからなくなってしまったほど(名前ばっかり出てきていたと思ったら、急に名字で呼ばれたりするので、コイツ誰だっけ?となりました)。だからでしょうか、後半部分の話の進み方がよくわからなかったです。私の読み方が悪いのかもしれませんが、もう少し丁寧に登場人物の関係を書いてくれるとよかったかなと思います。作者の論理展開に付いて行けず、途中でストーリーに置いて行かれてしまいました。探偵役が2人いるのも、理解しにくかった一因でしょうか。
 一見脳天気に過ごしているように見える登場人物には、話が進むにつれそれぞれ事情を抱えていることがわかってきて、これはシリーズものになるのかな?と予感させられました。もう少し、付き合ってみたい世界ではあります。次作に期待。

 
  三浦 英崇
  評価:B
   どうしようかなあ。この作品で一番、心痛めた点について書こうとすると、事件の根幹に触れざるを得なくなってしまうので、はなはだ隔靴掻痒な書評になることを前もってお詫びします。
 中高一貫女子校の美術部員の死に始まる、連続飛び降り事件。動機らしいものはいくつか提示されるんだけど、それがどの死に正しくあてはまるのかが、一つ証拠が現れるたびに二転三転していく、ミステリとしての出来の良さにまず酔います。最後の最後まで安心できない展開の妙。
 しかし、事件のシステムの出来云々のほかに、もう一つ忘れちゃならないことは、この事件で死んでいった者たちの大部分が、まだ若く、やっと大人の階段に足をかけたばかりだということです。もう、覚えちゃいないかもしれませんが、あの頃、人生だとか、人間関係だとか、いろんなことに悩みませんでしたか? そういうことを思い返しつつ読むと、心が痛むこと必至です。これ以上は、ちょっと。