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廃墟の歌声
廃墟の歌声
【晶文社】
ジェラルド・カーシュ
定価 1,890円(税込)
2003/11
ISBN-4794927398
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  川合 泉
  評価:B
   全13編中、4編に出てくる天才詐欺師、はたまた大ほら吹きのカームジンシリーズ(勝手に名付けました…)は、大人から子どもまで広く楽しめる作品だと思う。「カームジンの宝石泥棒」なんて、題名を見ただけで、子供の頃のわくわく感が湧き上がってくるではないか(笑)。この本にでてくる多くの作品は、筆者が特異な体験をした人々から語り聞きをするという形がとられている。このために、読者は筆者と共に体験談を聞いているような気分になり、「有り得ない話」にも引き込まれていくのだ。不気味な生物、不思議な兄弟、不死身の男などなど、これだけバラエティーにとんだ話を作り上げられるのには、パン屋、レスラー、新聞記者等、様々な職を転々とした作者の経験がものを言っているのだろう。1つ1つの話は、20ページほどと短いので、面白そうな話からつまみ喰いしていくのも有り。お薦めは、「一匙の偶然」、「重ね着した名画」、「クックー伍長の身の上話」。

 
  桑島 まさき
  評価:B
   “物語の天才”イギリスの小説家、ジェラルド・カーシュの短編集。みなアメージングストーリーばかりだ。「世にも不思議な物語」ではタモリがミステリーへの案内人だが、本作では書き手自身と思われる人物が異界へと誘う。
 ともかく物語の題材となる教養とイマジネーションは読者の好奇心を刺激する。“ありえない”と思いながらズルズル引き込まれてしまうのは、著者が“ありえる”ように帳尻をあわせているからであり、小説を書く上での碩学な知識を熟知し理解しつくているからだ。いや、案外したり顔で読者を異界へ案内しておいて、後はしらなーい、とばかりのペテンかも。それでも面白ければ文句はない。
 子供の頃から作家を志していたカーシュは、あまたの職歴につくがそれら(レスラー、フランス語教師、ナイトクラブの用心棒、パン屋など)に全く一貫性がないことから、体験主義(?)作家といえるだろう。「異色作家」という名誉と引き換えに、ボロボロになるまで書きつづけ57歳で人生を終えた作家の作品はフツーを逸脱したい人にお薦め。

 
  古幡 瑞穂
  評価:C
   「小さい頃は物語の木があって、そこにお話がなっていると思っていた」と、おっしゃったのは誰だったか…これを読みながらふとそんな話を思い出しました。今回、これを読みながら抱いたイメージは「物語が落ちている場所があって、それを拾い集めてきた感じ」です。幻想的で、ミステリアスな雰囲気を持った話ばかり。まるで夢を見ているようです。よりによって、体調を崩したときに寝床の中で読んだものだから怪しさが増幅されました。
 しかし、昨年『壜の中の手記』が非常に高い評価を得ていたようで、それを念頭において先入観を持って読んだせいか衝撃度は今ひとつ。それなりに面白いとはおもうけれども、どれがどう印象的だったかというと漠然とした感想しか出てこないのです。こういう短編って少し子ども向きに書き直して、読み聞かせなどしてみたらどうなんでしょうか。気持ち悪がられるかなぁ…

 
  松井 ゆかり
  評価:C
   なんだか「猿の惑星」みたいな作風だなあ、と思った(最初に掲載されている表題作は特に)。筒井康隆っぽくもある気がする(“七瀬”3部作と「ロートレック荘事件」と「くたばれPTA」しか読んでないんですが)。おもしろいんだけどとっつきにくくもあるところとか、後味が悪いわけじゃないんだけどすっきりするって感じでもないところとか(あくまで主観です)。
 どの短編も職人芸という味があるが、“カームジン”ものがいちばんおもしろかった。この短編集には「カームジンの銀行泥棒」をはじめ、4編が収められている。
“カームジン”ものは全部で17編書かれており、カーシュ研究家(ってきっと変わった人なんだろうな)によって一冊にまとめられているそうだ。この本の翻訳が出たら読んでみたい。

 
  三浦 英崇
  評価:D
   小説に限らず、人の作り出すあらゆる創造物は、その作品の生まれた時代を背景に負っています。かつては、「奇想天外」と評価され、人々を驚愕させた作品だったとしても、現代の、さまざまな刺激に慣らされた目で改めて見た場合、いまいち物足りない、といったことは、しばしばあります。
 この作品集にしても、たぶん、発表された当時は、力ある言葉たちが、読む人々にイメージを喚起させていたのでしょう。表題作の、廃墟に響く怪しい歌声だとか、詐欺師のホラ話として語られる奇妙な犯罪だとか、四百年生きた男の、ろくでもない戦場の日々の述懐などに、栄光の残滓がほの見えます。
 しかし、この作品たちが書かれてから数十年を経た、現在の読者である私には、そういった言葉の魔力が、残念ながら通じませんでした。「古めかしいなあ」という以上の評価は、私にはできません。ごめんなさい。