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ミスター・ライト
ミスター・ライト
【文春文庫】
マリサ・マックル
定価 840円(税込)
2003/12
ISBN-4167661543

  岩井 麻衣子
  評価:A
   女子に大人気だった“ブリジット・ジョーンズの日記”と同じような生活をおくる主人公アナ。彼女に同窓会の案内が送られてくるところから本書は始まる。同窓会はパートナー同伴。残り3ヶ月で人もうらやむような彼氏を見つけなけばならない。しかし、ハンサムな学生くん、売れない役者、二股をかけるエリート商社マンなどアナの生活はひっかきまわされるばかりである。“ブリジット”にでてくる“マーク”と“ダニエル”を足して2で割ったような“マーク”が登場するのも笑える。はたして彼女は誰と同窓会に行くのか。サブストーリーで描かれる主人公の親友クレアの姿が面白い。アナに「結婚してから赤ん坊とおむつと夫とマイカーと請求書と洗濯機だけのつまらない女になっている」と言い放たれるクレア。子供と夫のいる生活を幸せと思いつつも、孤独を感じる彼女の姿は多くの既婚女性の共感を得るだろう。既婚・未婚を問わず女性にお勧めの作品である。

  竹本 紗梨
  評価:B
   「大っ嫌いだった学生時代の同級生(しかも美人で金持ち、ダンナもカッコイイ)から10年ぶりに同窓会のお誘いです。3カ月後の同窓会にあなたは出席しますか?できますか?」自分に置き換えると「3カ月後なら出席する!」(だって、3カ月もあればパートナーも何とかなるし、ダイエットだって間に合う。ああ、見栄っ張り…)。主人公のアナも同じ、パートナー探しという名の男漁りをスタート。話はアイルランド版ブリジットジョーンズといったところだけど、ブリジットよりスケールが小さくて、それだけ身近。結局大変な目にあったアナの実感の「さんざんな目にあったけど、1つだけ良かった。お金では愛や幸せや安心は買えない。たいした人生じゃないけど少なくとも中身のある生活をしている」はそのまま作者からのメッセージかな。きっと「少なくとも中身のある」生活をしている身としては、素直にメッセージを受け取ることにしてみます。

  平野 敬三
  評価:A
   大学時代、年末になると決まって悪友たちと集まり、その年一番の「ネタ」を披露しあっていた。ネタとはもちろん、恋愛話で、ここでは間違っても「成功例」は許されない。いかに自分がひどい失恋を経験したか各自が色を付けて話し、聞き手をどれだけ盛り上げるか競うのだ。まあ、いま思えばバカなことをしていたなあという感じだが、当時はそういう場があったおかげであまり深刻に悩まずにすんだのだと思う。恋愛の「うじうじ」は声に出してみることで、まったくのギャグになるのだということをそのとき僕は学んだのである。この希代のラブ・コメディはまさにそれをそのまんま活字にした小説で、訳のうまさも手伝ってとにかく無条件に笑える。そしてきちんと苦い。恋愛以外にも大切なことってたくさんあるじゃない、と主人公がふと気付くシーンがけっさくで、それでもなお恋という妄想に右往左往してしまうアナの愛らしさは格別だ。頻繁に登場するダブリンのクラブが刹那的な恋の現場として非常に魅力的に描かれているのもポイントが高い。

  藤本 有紀
  評価:B+
   三十路、とか不惑とかいういい方が英語にもあるのか、単に“thirties"だとしても日本語みたいに含みがこもっているものなのか分からないが、ヒロイン・アナは30の大台をかなり意識している。10年後はカリブ海でハンサムな夫と休暇を過ごしつつ自分の店でじゃんじゃん稼いでいる、という野望を胸にしまって会社の昇進試験に臨むいっぽう、リッチだスティーブだジェイクだダレンだと理想の男探しに手は抜かない。
男からの電話は鳴らないし仕事に忙殺されていたほうがましと転勤を決心したときの「泳いでだって行ってやる」なんていうシーンが質量とも『ブリジット・ジョーンズの日記』に劣らず笑える。ラブコメ的お下劣ギャグを期待する人には物足りないかもしれないけど。「わーい」「ばんざーい」「すごーい」「く、臭ーい」「うーん、おいしーい」といったスーツを脱いだ30女が普通にいいそうな言葉が、ひらがな+音引きの多用も効果大、翻訳離れした読みやすさなので、翻訳嫌いの人にもお勧め。ヴィレッジブックス? と思うようなおしゃれな装丁に表紙買いするもよし。ブロスや『ダーティ・ダンシング』に思わず「なつかしーい」というもよし。