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塵クジラの海
塵クジラの海
【ハヤカワ文庫FT】
ブルース・スターリング
定価 693円(税込)
2004/1
ISBN-4150203539

  岩井 麻衣子
  評価:B
   人生に倦み、その虚しさを薬でうめてきた43歳の男。彼の大切な麻薬が禁止され手に入らなくなってしまう。彼は塵クジラからとれる麻薬を求め、クジラが棲む水無星の塵でできた海へ航海にでた。SF界を代表する作家スターリングが、1977年21歳で書いたデビュー作である。序文でスターリング自身が書いている通り、人物の描写、ストーリーの展開も荒削りな感じは否定できない。しかし、その世界観はやはりすばらしく、思いもよらない発想が次々に披露される。塵の世界で生きる為、鼻毛はふさふさ、まつげはラクダのような水無星星人たち。アレルギーがあり、ちょっと触れられただけでかぶれてしまうヒロイン。主人公と結ばれる日は彼女の死を意味するのである。文章の端々から作者の書いてて楽しそうな様子が伝わってくる。作者の頭で繰り広げられる世界に参加できたような読後感であった。

  斉藤 明暢
  評価:C
   私だけではないと思うけど、異世界ファンタジーは、その世界の映像を思い描けるかどうかで、面白さがほぼ決まると思う。もっとも読み返してみると、イメージしてた映像は本文の描写とはズレていたりするけど。
水ではなく塵の海を進む帆船(きっとノーチラス号みたいな先がとんがった船だろう)、有翼の異星人女性(アニメ「青の6号」に出てくるミューティオって半魚人みたいなイメージ)、怪しげな調査に燃える船長(ヒゲの巨漢で、ちょっと臭そうだ)、麻薬の原料にもなる塵海の鯨(アンコウ+エイの巨大な感じ?)…… と結構調子よく妄想は広がっていったが、なぜか主人公の顔が見えてこない。
いろいろ考えてるような、行き当たりばったりのような、利己的なような、冷静なような、今ひとつつかみ所のないキャラクターなのだ。当時20代の作者自身を投影するために、照れ隠しに年長でニヒルな設定にしたらしいが、カッコつけてる割に肝心な所ではヘタレだったり、微妙に勘違いしているあたりが、設定の意図とは逆に若さを感じたりする。
そして、結構キツいことやらかしてくれたくせに、最後だけ綺麗にまとめんなよ、とか思うのはひねくれすぎだろうか。
それが若さということなのかもしれないけど。