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幻夜
幻夜
【集英社】
東野圭吾
定価 1,890円(税込)
2004/1
ISBN-4087746682
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  川合 泉
  評価:A
   全ての始まりは、阪神淡路大震災だった。人を殺した男と、過去を封印した女。魔性の魅力を持つ美冬に見初められてしまった雅也は、知らぬうちに夜の道をひた走らされることとなる。美を追求し続ける美冬を通して、表面の美と内面の醜が鋭く描き出されている。何かを感じ取りながらも美冬から離れられない雄也は、前作『殺人の門』の主人公とどこか通じている気がした。
寝る前に読み始めてから、明け方近くまでページを繰る手を止められず、524ページの大作にも関わらず一気に読んでしまった。緻密に練られたストーリー展開で、常に仕掛けが張り巡らされており、続きが気になってとめられないのだ。この作品は、あまり時間がない時に読み始めると絶対に後悔します!

 
  桑島 まさき
  評価:AA
   未曾有の大災害となった阪神大震災の日、〈秘密〉を知られたために共犯者となり、女(美冬)の野望を叶えるために手を貸していく男(雅也)。利用されているとも考えず、誰よりも女のことを知っていると自負する男が哀れだ。キャスリン・ターナーとウィリアム・ハートが共演した映画「白いドレスの女」にプロットがちょっと似てなくもないが、ターナー同様に自分の邪魔をする人間は容赦なく消していく美しい悪女の、冷酷で、底しれぬしたたかさ、際限のない欲望の姿にゾクゾクしながらも魅惑された。雅也にとって美冬は、まさにファム・ファタールだ。この手の女には誰も叶わないでしょ〜。決して自分の傍にはいて欲しくない。
 罪を犯したという自責の念を植え付けておいて、その弱みを利用する。雅也に、まっとうな道(昼)を生きられず、けもの道(夜)しか生きる道はない、と洗脳する悪女は、人を愛することを知らない気の毒な女だ。それでも悪女は負けない。悪女を追いつめる刑事も雅也も“こころのない”悪女の前に…。 東野圭吾は本当に小説が巧い。今度こそ直木賞を受賞して欲しい!

 
  古幡 瑞穂
  評価:B+
   本の雑誌社さん、こんな書評しづらい課題図書を選ぶなんてずるいです!
 もう一つの『白夜行』。正直言って、一読した後の感想は“読後感最悪、なんだこりゃ”ってな感じでした。それだけだったら酷い評価をつけてましたね。
 が、どうにも腑に落ちないので少し調べごと(要は『白夜行』と照らし合わせて考えてみた)をしてみて状況が一転!いやぁどうやら奥が深い話ですよ、これは…本当は感想を書くより「ねえ、あれって○○の事だよね。」とかそういうことを語り合いたいのです。ネタばれになってしまうので書けないことが多いのが本当に残念です。ともかく、今度は“『白夜行』も『幻夜』も序章に過ぎなかった!”みたいな作品が出るに違いありません。いや、もし出なかったら過去に遡及してでも評価しなおしちゃいます。
 あ、ひとつ間違うと女性不信の男性を増産しかねない小説ですので、それだけはご注意ください。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   ああ、こういうことだったのか…。
 この本は、同じ著者の渾身の力作「白夜行」と合わせて読まれることをおすすめしたい。2冊とも読んだ方がおもしろいからとか楽しめるからとかいう理由ではない。むしろ2冊分の後味の悪さを引き受けることになるわけで、読書に爽快感を求める方にはそもそもこの小説は不向きだと思われる。しかし、そのつらい読後感を差し引いてもなお、圧倒的な感銘が心に残ることだろう。
 ふとした拍子に不幸へと堕ちていく登場人物たち。でも周りからどう見えようと、すべてを捨てて愛せる相手に出会えた主人公雅也は、もしかしたらしあわせだったのだろうか。私にはわからない。
 どうしてどうしてどうして東野圭吾という作家にはこんな話を思いつくのだろう。自分の頭で生み出したものであっても、書くのは身を切られるようにつらいと思う。

 
  松田 美樹
  評価:A
   考え抜かれた小説です。これしかストーリーはありえない!と思えるほど完璧な仕上がり。本を読み終わるともっとこうだったらなあと思うことが時々ありますが、この小説の場合、それは考えられません。さすがは東野圭吾。うならされました。
 周到に糸を張り巡らす1人の女性と、知らず知らずに蜘蛛の糸に絡め取られていく登場人物たちの、食うもの、食われるものという図式。そして、え?ここまで?と、徐々に明らかになる伏線と、それが1つずつぴたりぴたりとはまっていくストーリーにだんだん恐くなりました。何が一体、そんなに彼女を上り詰めるように駆り立てたのか、とても気になるところです。ラストシーンは、え?こんな終わり方?とちょっと驚きました。2段組で500ページを超える長篇ですが、時間を割いて読む価値があります。

 
  三浦 英崇
  評価:B
   真の幸福とは何なのか? という、人類普遍の問いに対しての回答を、小説家ならば誰もが皆、いつしか書きたくなるものなのかもしれません。この、沈着冷静に罪を作り出してゆく女と、それにいつまでも慣れず、自縄自縛になってゆく男の話は、520ページかけて、人としての幸福から遠ざかるにはどうしたらいいか、を示そうとしています。
 結果として、この読書経験は、極めて辛く重苦しいものになります。嫌な気分をずっと抱えながらも、一気に読まずにはいられないのは、明けない夜などない、いつかは朝が来るんじゃないか、という、か細い期待を、それでも抱いてみたくなるからです。
 ラストに至って知るタイトルの意味の凶悪さ。帯では同じ作者の「白夜行」に比して紹介されていますが、これで本当に終わるのか? という思いは、かの作品をはるかにしのぎます。その衝撃ゆえに、かえって評価は「B」としか付けられないのですが。