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真夏の島の夢
真夏の島の夢
【角川春樹事務所】
竹内真
定価 1,785円(税込)
2004/2
ISBN-4758410267
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  川合 泉
  評価:B
   瀬戸内海に浮かぶ鹿爪島に、アートフェスティバルのために劇団コカペプシのメンバー四人が降り立った。小説家の佳苗は、その四人をモデルに官能小説を執筆することを思いつく。そこに産廃問題も絡んで事態は大混乱。
小説の本筋はもちろんのこと、コカペプシの脚本、佳苗の小説など作中作の中身もふんだんに描かれており、一冊で三度おいしい作品。特に芝居の脚本は、面白いアイデアが多く、勢いに乗って書かれているのが伝わってきて楽しめる。全体的にはコメディタッチの小説だが、産廃問題には真正面から向き合っている。ゴミを島に持ち込む奴らを許せないと感じながらも、自分も加害者なのだと思うと、島の老人達に対して申し訳ない気持ちになった。(この老人達のキャラがまた良い!)
蛇足ですが、実は「鹿爪島」という名前にもちゃんと意味があるのです。それは、この小説を読んでからのお楽しみということで…

 
  桑島 まさき
  評価:C
   男4人のコント劇団員と女2人。女たちは小説家とその従姉妹のアシスタント。彼等のひと夏の島での物語。
 官能小説を書いている佳苗はリゾート気分を自戒しつつ小説を仕上げるために島ごもりしているのだが、何せ目の前に若くてピチピチした男が4人もいるもんだから、仕事と欲望と格闘しつつもしっかり夏の日のアバンチュールを堪能。対する律子は団長の進也と精神的な絆を深めていく。この対比が鮮やかだ。
 単なる恋物語ではなく、産廃処分場をめぐる騒動あり、アートフェスティバルあり、とてんこもりなのだが、それらは彼らの物語に深みをもたせるための添え物にすぎすあまり重きをおいていない。思いもよらずドタバタ劇に巻き込まれたコント劇団はそれをしっかり自分たちの芝居に反映させていく。さすが演劇人だ。表現者だ。青春だ! だが残念なことに、4人の男たちの個性があまり伝わってこない点が、本作を読みにくくしている。

 
  古幡 瑞穂
  評価:A
   場所限定(とある島)、期間限定の小説なので、もうちょっと人の顔と思いがじっくり書かれるとわかりやすくなったかな。登場人物が多い分、どこに感情移入していいのかわからないままに読み終わってしまいました。キャラは立っているんですけどね…それからテーマの方も恋愛、演劇、官能小説、産廃事件など盛り沢山に詰め込まれた結果ちょっと消化不良気味なのが残念です。文章が読みやすい分サクサクと読み進んでしまうので、一気にエンディングに到達してしまうのですよ。2週間という時間が過ぎるわけだから、もうちょっと長い話になっていてもいいかな。『カレーライフ』の経験上、長い小説を一挙に読ませるだけの腕があることを知っているので余計残念でなりません。
 コントの作り方などは非常に興味深く読めました。コカペプシのみなさんの次の活躍が楽しみですね。メジャーになって帰ってきたりして…

 
  松井 ゆかり
  評価:C
   この読後感はどこかで味わったことがあるような…と数日間のどに刺さった小骨のように気にしていたら、NHK教育の小学生向け道徳番組「さわやか3組」(私が小学生だった頃にやっていたのは「明るいなかま」というタイトルだったと記憶している)と似ているのだ!と思い当たった。
 数人の仲間、些細な行き違いや誤解、そこに起こる事件、そして大団円…(もちろん男女交際におけるどろどろとか、環境破壊の規模などは、小学生的健全さを大きくはみだしているわけだが)。
 この話、無理にミステリー(深刻なものではないが)に持っていかなくても、という気がした。ストレートな青春小説として勝負してもよかったのじゃないだろうか。

 
  松田 美樹
  評価:B
   謎解きって、謎(事件)がでーんと最初にあってそれを最後までに何とか解いていくというパターンですよね。でも、この話は、(小説の中での)虚構と現実がうまいこと混ざりあって、知らない間にあらあら事件が解決!という変な印象を受けました。登場人物の作家が書き進めていくポルノ小説と現実がシンクロしていくだけかと思ったら、若者4人が作るコント芝居も加わってきて、それらに気を取られていたら、確かに伏線は張ってあったものの、そんなに気にせずにいた現実問題が急にクローズアップされて解決した!って感じです。単に謎解きというだけでは終わらない楽しさがありました。一筋縄ではいかない小説というか。ちょっとアンバランスなところが、この小説の魅力でしょうか? 軽い調子で読んでいたら知らないうちに深みにはまっていた、という技がきかされた作品です。

 
  三浦 英崇
  評価:C
   生まれて初めて自分の意志で観に行った演劇が、笑いを基調にしたものだったこともあって、今でも好んで見る演劇の大部分が、喜劇的要素の強いものだったりします。この作品は、主人公たちが下北沢あたりを本拠にするコント劇団ということで、自分が親しんでいる世界ということもあって、素直に小説世界に入っていけました。
 夏合宿とバイト代稼ぎ、その他もろもろの事情で島に渡った劇団員4人組が、ひと夏の恋と、産廃をめぐる大騒動に巻き込まれる、という話運びや、演劇が形成されていく過程のリアリティ溢れる描写など、デビュー作から追ってきた自分としては、非常に安心して読めたんですが……
 ただ、安心は安心なんだけれども、今までの作品から見ても、もっとわくわく、どきどきさせてくれるに違いない、と思っていた分、ちょっと肩すかしにあったような気がします。期待しすぎた自分が悪いのかもしれません。