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1421 中国が新大陸を発見した年
1421 中国が新大陸を発見した年
【ソニー・マガジンズ】
ギャヴィン・メンジーズ
定価 1,890円(税込)
2003/12
ISBN-4789721663
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  藤井 貴志
  評価:D
   周囲では前評判が高かったが、その理由がいまひとつわからないというのが率直な印象だ。「コロンブスより70年もはやくアメリカ大陸を発見していた!」というコピーは知的欲望をかき立てるのに充分だし、それが中国の明朝による功績だというのもこの話をより神秘的なものにしてくれる。しかし肝心要の内容は、期待したほど面白みがなく、後半ではたびたび中だるみも感じた。
確かに、これまでの世界史の常識を覆す著者の発見は興味深いが、次から次に資料を積み上げることで自らの説が確かなことを立証しようとする試みに終始しており、輝くべき「素材」を十分に磨ききれていないように思えた。確かに資料としては非常に需要なのかもしれないが、エンターテインメント面はどうしても弱い。これが筆力の限界か翻訳によるものかはわからないが、元潜水艦艦長の著者では航海上のエピソードに重きが置かれるのは仕方がないのか。個人的には、この大航海を行い得た明王朝の内幕にもう少しページが割かれてもよかったと思う。

 
  古幡 瑞穂
  評価:C
   こんなことを書くと怒られそうですが、誰よりも早く新大陸を発見したのが中国だった!と聞いたときの感想は「やっぱりね」だったのです。あれだけ壮大で、国力もあって歴史もある国だったらそりゃあ無理なかろうと。コロンブスの船団をはるかに凌駕するスケールの船と乗組員、この人たちが困難をくぐり抜けてどうやって新大陸を発見していくのか!?という記録だと思っていたら証拠の積み上げによる「そうかもしれない」の証明でした。
 封印された歴史を紐解いている本なわけなので無理がない話なのですが、証拠としては今ひとつ説得力に欠けるなぁと思われるものもあり、それらが十把一絡げにどーんと提示されて、お腹いっぱいになった感があるのが正直なところです。開き直って小説として書いていただけたらもっと楽しめたのかもしれません。これについてはノンフィクション読みの方の意見をご参考にするのがよいかと思われます。あしからず。
 あ、でもこれまでは鄭和が自ら様々な大陸を発見したと信じていたので、それを修正出来たことには感謝してます。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   コロンブスより70年早く、中国人がアメリカ大陸を発見していた。歴史にあまり明るくない一般人にとっては「源義経がモンゴルへ渡ってチンギス・ハンになった」というのと同じくらい奇想天外に思われる説だが、著者ギャヴィン・メンジャーズは膨大な資料と綿密な調査によって裏付けをとっていく。
 私は「フィクションは事実の持つ重みにはかなわない」という意見には必ずしも賛成しない。我々はいつも、小説や戯曲や詩その他もろもろの作りごとによって、力づけられてきたのではなかったか?しかし、この本の有無を言わさぬ説得力には、さすがに圧倒された。
 何よりすごいと思うのは、そもそものきっかけは著者のほんとうにちょっとした疑問だったということだ。謎を解き明かそうとする情熱、行動力、思考能力…本の内容そのものも申し分なくおもしろいが、メンジャーズさんご本人も魅力にあふれた人物なのだろうな。

 
  三浦 英崇
  評価:B
   大学受験で世界史選択だった人なら、「鄭和の南海遠征」なんてのは必出項目だったかと思います。少なくとも、インド洋を渡ってアフリカに来るだけの航海技術が、当時の明にはあったと思います。そこまでは認めるとしても、さて。
 この本では、鄭和艦隊が、喜望峰を越えて大西洋に出て、更に南北アメリカ大陸、北極と南極、オーストラリアにも足を伸ばしていたのではないか、という壮大な仮説が展開されています。正直言って、すべてを鄭和艦隊の功績にするには、いささか根拠が薄弱な気はします。証拠として挙げている数々の石碑にしても、中国人が混じっていたなら漢字で残せばいいのに、とか。
 そういうツッコミどころは多々ありますが、完全に否定しきるほど知識が自分にある訳でもないので、「ありえない」とは言いません。実際、事実かどうかを気にせずに「読み物」としてとらえるならば、非常にスケールの大きい、魅力的な話だと思いますし。