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東京アウトサイダーズ
東京アウトサイダーズ
【角川文庫】
R・ホワイティング
定価 740円(税込)
2004/1
ISBN-4042471056

  岩井 麻衣子
  評価:C
   戦後の混沌とした日本には多くの人が集まり、様々なビジネスが始まった。一攫千金を狙いうごめく金もうけの達人。必然的に発生した売春ビジネス。人を信じやすい日本人の国民性を利用した詐欺師たち。ホステス、暴力団。本書にはそんな裏やあまり公にならない世界に生きた「ガイジン」達が描かれている。表舞台で語られることはないだろう。しかし、裏の世界に生きた彼らも戦後の日本を形作る一端を担った。人間も街もきれいごとだけで作られているわけではない。表も裏も全て合わせもつ。本書はまぎれもなく、今ある日本をつくった人々の姿である。著者が「日本」とりわけ「東京」を本当に愛しているのが伝わってくる。東京という街を知らない人間には少しわかりにくいところもあるのだが、ガイジン達の活気は感じる。教科書に載らない日本を知りたい人には必読の一冊である。

  斉藤 明暢
  評価:B
   東京に限らないと思うけど、一つの街というのはそれなりに奥と幅があって、自分が住んでる場所の近くでさえ、入ったことのない異世界があるのだと思う。
そして東京の中の異世界というのは微妙に怖い。これがニューヨークとか香港とか大阪だったら、自分が生涯近寄るかどうかも分からない遠い異世界とその住人の話、と片づけられるんだけど。まあ、東京近辺に住んだことのある人なら、一度は作中の場所のどれかに近づいたことがあるはずだ。
 いわゆる「悪党」がでかい顔してる世界の話を聞かされると、悪党でも大物でもない我が身としては、連中の災難や凋落を喜んでしまったりするのだけど、週刊誌とかの論調もつまりはそういう感情から来てるんだろう。
 自分が街でお金を使うとき、時にはそんな連中の手助けをしていることがある、というのはうまくイメージできないけど、そんなものなのかもしれない。何せこの国では税金や年金を払っても、似たような連中が似たようなことをしているのだ。

  竹本 紗梨
  評価:B
   どんな本でも映画化したら「原作の方がいい、こんな映画じゃ原作の良さがぶち壊しだ」と思ってしまうが、この話は絶対に、映像で当時の空気を感じながら見てみたい。だって面白すぎる、いかがわしい六本木、赤坂、東京の夜、そして裏の顔。こんなに真面目で大人しい国になる前夜の日本のすすけて、がつがつして、人を引きつけてしまう空気。大きく、底知れぬ魅力を持つ人たちが淡々と客観的に書かれていて引き込まれる。淡々としすぎているのだけがちょっと物足りないかな。

  藤川 佳子
  評価:A
   「東京アンダーワールド」を読んでいたので手に取りました。前回同様の読みごたえ、大物の名前はバンバン出てくるわ不良ガイジンたちは相変わらず暴れまくるわで、ため息をつきながら読みました。大人になったら、こんな風に東京ナイトライフを謳歌するはずだったんだけどな…。
私はこのシリーズを日本の裏戦後史として読んでいます。日本は戦争でアメリカに負け、その後50年以上もアメリカの影響をもろに受け続けています。日本とアメリカの関係はやはり特別なものなのだと思うし、日本はアメリカに冒され続けていると言われれば、そんな気もしないでもない…。けれども、「東京アウトサイダーズ」の中には傍若無人な不良ガイジンたちの間を、下心いっぱいでウロチョロするしたたかな日本人の姿もあり、そんな彼らが実に頼もしく見えてしまいます。「悪」と「感動」に国境はない!
人類みな平等という言葉が思い浮かぶ一冊です。
「東京アンダーワールド」も、続編「東京アウトサイダーズ」も、とくに若い人に読んでもらいたい。

  藤本 有紀
  評価:D
   戦後日本(東京とは限らない)にやってきた外国人でも、歴史に残るようなひとかどの人物では決してない、いわば市井の外国人の中に興味深い人物がたくさんいたと著者はいう。明らかな犯罪者、素行のよくない者、外交に悪影響を及ぼした者。興味の尽きない在日外国人列伝といった内容の本書であるが、率直にいって読み終えるのに難儀した。
 この本は日米で出版されるようなのだが、アメリカの読者により有用であるように書かれているのではないだろうかと思う。日本語の「外人」という概念(本書ではガイジンと訳されている)や「ヤクザ」という暴力団組織のことが熱心に解説されているので、そのことをよく知らないアメリカ人には実用的な内容だろう。その熱心さがうっとうしいのだ。「外人と外国人の使い分けも自然にできるし、やくざも知っている。私は日本語ネイティブスピーカーだからね」などと声を荒げたくなる。日本版としてもっと大胆な編集のやり方があるのではないか?

  和田 啓
  評価:D
   戦後、GHQの傘下となった無法地帯の東京で一攫千金を夢見る名も無きアメリカ人が暗躍する。ヤミ取引、賄賂、売春・・・・・・華やかなキャバレーを舞台に日本の政治家や暴力団を伴ってあたかも絢爛豪華なショーのように、金にまつわる事象が次から次へ見せられる。共産主義と右翼が火花を散らす時代。天才的な詐欺師が跋扈、バイオレンスが横溢。定番の児玉誉士夫も登場だ。国の枠組みが脆弱の敗戦国を土俵に、勝った国は何でもできたんですね。
 前作も期待した分ひどかったが、今回はそれに輪をかけて不快な気持ちになった。登場人物はどれもこれも類型的で魅力がない。歴史に隠れた騒々しいエピソードを盛り、「こんなこと知ってますか?」的手法がワイドショーみたいで読み手を丁寧に扱っていない。六本木のピザ屋よりも下山総裁の真相の方をわたしは知りたいわけです。