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勝手に目利き
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食べる女
食べる女
【アクセスパブリッシング】
筒井ともみ
定価 1,470円(税込)
2004/3
ISBN-4901976087
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  川合 泉
  評価:B
   18篇全てのキーワードはもちろん「料理」だが、フォアグラやキャビアが出てくる訳ではない。しかし、素朴だけれど高級料理よりずっとおいしそうな料理がわんさか出てくる。まさしく、今見直されているスローフードに光を当てている。食べ物が、優しく丁寧に描写されており、本当に食べたくなってくる。読んでいて気付くのは、男性が女性に料理を作るというパターンが圧倒的に多いことだ。男性が主人公の「食べる男」に収められている三篇も、料理を作っているのは男性。男が女に作る料理というのは、女が男に作る料理よりはるかに美味で、はるかにエロティックなのかもしれない。
一人暮らしの働く女性に特にお薦め。ほかほかのご飯と、湯気の立ったおみそ汁が恋しくなること間違いなしの一冊。

 
  桑島 まさき
  評価:A
   料理をするのも食べるのも好きな作家なんだろうな〜。なにしろスゴイ知識なのだ。「筒井ともみ料理小説集」とも「料理エッセー」としても興味深く読める人間のプリミティブな欲望である食とセックスにまつわる小さな物語を集めた短篇集だ。人気脚本家の筒井ともみは映画「阿修羅のごとく」を手がけたが、そこでも、したたかな一面を柔和な微笑の陰に隠した女たちが、生きるエネルギーを食に求めるかのようによく食べていた。「桜下美人」に出てくる女系家族の年中行事にまつわる食べ物…揚げ餅やおはぎ…を作るシーンはついつい映画と重なってしまう。
 昔の恋に戻ろうかどうか迷っている所、腹がすき考えることをやめ玉子ご飯をシャバシャバとかきこむ女、ラーメンとセックスが切り離せない女、純愛したいと思いつつどんな素材(男)も受け入れ可能、調整(付き合い方)もシンプル、廉価(割り勘主義)のひき肉みたいな女…彼女たちの本音はストレートでよーく分る。「食」べたい「セックス」したいと思う欲求は、至極当然な自然の摂理だもんな〜。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B+
   「人間の欲望のうちで、食べたり眠ったりは自分で処理できるけど性欲だけはぜったい人に迷惑をかけるんだ」と言った人がいて、なるほどなぁと思ったときにタイミング良くこの本を読んでいました。迷惑をかけるかどうかは別として性欲と食欲にもどうやら浅からぬ関係があるみたい。
 短編集なんですけど、ここに出てくる女性陣はよく食べる・よく飲む、そしてよく愛する。恋愛もセックスもかけひきではなく欲望に近いところでやっている感があって、これがなんともエロティックなのですよ。これがまたどこぞの超高級レストランの食事とかではなくて、あくまで台所で、近所の居酒屋で繰り広げられるお話だから体温もちゃんと感じられます。体の栄養・心の栄養をちゃーんと採っているオンナは生命力も恋愛力も強いっていうことをしみじみ感じました。『負け犬の遠吠え』を読んで自分の負け犬っぷりに打ちのめされている人には良い栄養になるはずです。

 
  松井 ゆかり
  評価:C
   決して難癖をつけたいわけではないのだが、この本の冒頭に掲げられている「宣言」、あれはどうなんでしょう。別に趣旨そのものに異論があるわけではない(自分では突き詰めて考えたこともない内容だが、正論といえば正論だと思う)。しかし、この「宣言」のようなことというのは、読者が「食べる女」という短編集を読んで、然る後に感想として沸き起こってくるものではないだろうか。それを、さあこれから読もうというところで、いきなり掲げられては…(って、やっぱり難癖か。すみません)。 小説そのものは手堅くまとまっていると思う。正直言って途中ちょっと食傷しかけたりもしたのだが、すべての短編が「食と性」というテーマに貫かれているという揺るぎない姿勢に、最終的には清々しささえ感じた(ランナーズ・ハイとでも言えようか)。

 
  松田 美樹
  評価:E
   「こんな奴はいない!」と何度叫んだことか。登場するのは、主におしゃれな仕事(ジュエリーデザイナーとかテレビのアシスタントプロデューサー)をしているシングルの女性。一見、おしゃれな仕事じゃなくても(治療師とか主婦)そのおしゃれぶりがとことん説明してあります。そして、いい男と出会って気持ちのいいセックスへ。ありえん。全くありえないシチュエーションのオンパレード。30代〜40代の恋も仕事も経験を積んだ主人公たちは作者の考える「いい女」なんだろうけど、私から見たらありえないし、安っぽいしで、全然共感が抱けませんでした。私達っていろんな経験をして、酸い甘いも噛みわけて、そして今、こんなに「いい女」になってるのよ。というのが鼻に付きます。うーん、何か勘違いしているとしか思えません。最初は、しゃれでこんな人たちばかりを書いているのかと思いましたが、どうやら作者は本気らしいと分かって頭を抱えました。私とは遠い世界過ぎて全く理解不可能。例えば、仕事が忙しい主人公に、料理上手でセックスも上手く、いつでも全てを受け入れてくれる年下男が待っていてくれている、なんて都合のいい男が果たしているんだろうか? 私の周りにこんな奴がいないだけなのか。うーん。

 
  三浦 英崇
  評価:D
   人類が地球上でここまで繁栄してきたのは、突き詰めて考えれば食欲と性欲という二大欲求に突き動かされた結果です。個体数を増やし、それを維持し続けるための基本的な欲求を、人は皆、無意識の本能として抱えている訳です。そうやって連綿と続いてきた生命の流れの果てに自分が生きていることを承知の上で、それでも、あえて言います。
 これだけ、食と性を不可分のものにして結び付けられた話を幾つも読むと、正直言って「おなかいっぱいですから、もう」という感慨しか起きなくなりますね。正面きって、臆面もなく食事とセックスを結びつけた話を読み続けられるほど、私は先祖返りしていないので。
 たぶん、私に最も向かないタイプの話が揃ってしまっていることが、評価を低くしてしまっている感は否定できないです。あるいは、この作品に登場する女性達のあまりのパワフルさに辟易してしまっただけかもしれません。申し訳ない。