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勝手に目利き
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迷宮の暗殺者
迷宮の暗殺者
【ヴィレッジブックス】
デイヴィッド・アンブローズ
定価 882円(税込)
2004/2
ISBN-4789721973

  岩井 麻衣子
  評価:A
   政府機関の極秘任務をその超人的な能力で次々に遂行していくチャーリー・モンク。彼には色のないぼんやりとした過去の記憶しかなく、大切な幼馴染キャシーの顔がどうしても思いだせなかった。チャーリーはある日監視対象がキャシーだということに気づく。キャシーに話しかけてしまったチャーリー。その報告をしなかった彼をとんでもない事実が襲う。何が真実で誰を信じたらいいのか……。こんな紹介なんて読んでないで何の知識もいれず読み進めてほしい一冊。頭が真っ白になるほどの展開が待っているのだ。あまりのことにもう大爆笑である。後半に物足りない感があるのだが、前半のすごさで許せてしまう。現在、私の中でベスト・オブ・不幸に輝くチャーリー。その身に起こる様々な展開がもう気の毒でしかたない。B級的な作品が好きな人にはおすすめ。真の自分の姿ってなどと悩んでいる人にも意外と吹っ切れる一冊になるのではないだろうか。

  平野 敬三
  評価:B+
   バーチャルか現実か、というテーマに別段目新しさはないが、意表を突く展開の連続技は非常に見事だ。岡嶋二人は名著『クラインの壷』でバーチャルと現実の狭間が曖昧になることの怖さを読み手にとことん染み込ませたが、本書もそれに似た恐怖感を味わえる。いま自分が見ている風景ははたして現実なのだろうか、という問いを躊躇なく肯定できる人がいるとすれば、それは自分という存在の不確かさに無自覚な人間だ。しかし、そんな人でも本書を読み終えた頃には、いまこの本を読んでいる自分はきちんと存在しているのだろうかという出口のない自問に悩まされるだろう。夢か現実か、という状況からさらに飛躍していくストーリー展開が突拍子もない絵空事に感じられず、それどころかうっすら寒気を覚えるのは作者の力量が突出している証拠である。惜しむらくは物語の着地のさせ方に鮮やかさが欠ける点。なんだかバタバタっと幕が下りてしまうのがさびしいのだった。