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下妻物語
下妻物語
【小学館文庫】
嶽本野ばら
定価 630円(税込)
2004/4
ISBN-4094080236

  岩井 麻衣子
  評価:B
   ヤンキーの街「尼崎」からあこがれの関東圏「下妻」に引っ越したロリータ・桃子。尼崎のヤンキー色から逃れられると喜んだのも束の間、実はただのド田舎だった下妻で出会ったのは、ものすごくベタなヤンキー・レディースのイチゴだった。本人たちはその道を確立していると思っているようだが、ロリータ桃子は、姿はロリでも心はやさぐれているし、ヤンキーイチゴは素直で真っ正直な心優しいムスメに育っている。二人の少女が同じような二面性を持つことで、ロリータとヤンキーという一見全く別種の世界が混ざり合い、変わった友情物語ができあがった。自分を主張しつつもお互いの魂をきちんと認めるべきという筋の通ったメッセージが強烈に伝わってくる。乙女のカリスマがぶちかました世界は、ジーンズ・T−シャツ族の私にも、ロリータやヤンキーを身近なものに感じさせてくれた。当たり前だけど、みんな同じ人間である。文章の軽快さに加え関西的な笑いのセンスも楽しめた。食わず嫌いせずにぜひ試す価値ありの一冊である。

  斉藤 明暢
  評価:AA
   とある記事で日本在住のアメリカ人(日本の様々なグッズ販売を海外向けにするお仕事を)が、日本のアダルト産業について尋ねられて、「高度に様式化されている」と表現していた。規制と自らに課した枠の中で、あらゆるアイデアを注ぎ込みながら突き進むその姿勢は、やってる事自体はともかくスゴいと素直に思う。
 さて、この作品で言うところのロリータとはファッションの話。日本人で似合う大人は10人位しかいない気もするが、ものすごいヒラヒラフリフリの衣装の方は、時々街で見かけることがある。こちらも気合い無しには無理な領域だろう。
 地方に行くほどパンクミュージシャンのメイクと髪が過激になっていくという話を聞いたけど、それはヤンキーのファッションも似ていると思う。ミスマッチなようでいて、ロリータと結構共通点があるのかもしれない。
 そして、変わった格好をしているからと言って、その人のアタマの中身が不自由とは限らないのだ。

  竹本 紗梨
  評価:A
   この表紙!このタイトル!この作者!(失礼)人前で読める本と読めない本ってありますよね。人前で読めない最たる本だけど、これがむちゃくちゃ面白い。トーンは一定なのに、爆裂に面白い。女の子の友情物語としてピカイチです。桃子と苺、それぞれの人生を捧げているのは「ロリータ」と「ヤンキー」。分かり合えるはずもないし、分かり合う機会もない。だって知り合った当初の苺の「お前にとってあたいってなんだと思う?」の問いかけに、桃子の答えは「趣味の悪い田舎のヤンキー」。そんな2人に信頼が生まれてくる…爆笑の中に、ちょっとクサくて、グッとくるメッセージもアリ。読む前の印象と読後感がこれだけ違う本も珍しい。スカっとします、ちょっと自信がつきます。

  平野 敬三
  評価:B
   学生時代、インドやアフリカの民族衣装が私服だった。友人たちには「恥ずかしいから一緒に歩くな」と虐げられ、初対面の人に「けっこう学内では有名ですよ(笑)」と奇異な目で見られ、それでも平然とその格好を貫き通した。そのときにはいろいろとポリシーあっての民族衣装だったはずだが、今から思い返してみれば何かを勘違いしていたか、単に周囲の視線に鈍感だったのだろう。少数派であることそれ自体に罪はない。意図的にマイノリティであろうとする行為・思考が醜いのである。だから無自覚なヤンキーは許せても、確信犯のロリータは生理的に受け付けなかったりする。はたから見ていれば笑えても、身近にいるとけっこうめんどい。ただ、本書の主人公たちにはそれほど嫌悪感は抱かなかった。彼女たちが完璧にガキだからだろう。かなり単純化された人物像ゆえに、笑う理由も怒る理由も悲しむ理由も、完全にこちらの理解の範疇だ。だからこっちも温かく見守れる。笑いをとろうとしている箇所がことごとく寒いのが難だが、普通にいい話だと思う。

  藤川 佳子
  評価:A
   映画『下妻物語』のチラシには「おバカで上等、ダサくて結構! これが私の生きる道。ふたり揃えば…“負ける気がしねぇ”」なんて言葉が。そして、下妻(茨城県のド田舎)、ヤンキーちゃんとロリータちゃんとくれば、どんなお話かは大方予想もつくでしょう。‘メガネを外したら実は美人’的な、昔の少女マンガテイストのエピソードがいくつも散りばめられ、‘そんなウマイ話あるわけない!’と思いつつも、化石寸前の乙女心がどうもウズくのでございます。あぁ、このカンジ。トイレに籠もって『りぼん』読んでた頃を思い出します。
ヤンキーちゃんのイチゴとロリータちゃんの桃子は、果たして水と油か。過剰な装飾、マイナーという点では、同じアナのムジナという気も…。けれども、自分とは全く異なる他者を、肯定も否定もせず互いに「変なヤツ」と思いながらも行動を共にするイチゴと桃子の関係には深く学ぶものがありました。

  藤本 有紀
  評価:A
   『蹴りたい背中』が駅前に無印があるような都市に住む昨今の多数派に属する高校生を描いたものであるとするなら、この『下妻物語』は少数派による物語といえよう。時代遅れのマイノリティ、であるところの茨城のヤンキー(それもなめ猫やハイティーンブギ時代を引きずる)・イチゴとヤンキーより希少、引っ越してきた下妻ではまるで理解する人のいないロリータの桃子。異色のふたりのうち、より強烈に個性的な桃子が語り手である。マルティプルな性格、つまりブリブリのロリータ、なのにときに関西育ち親譲りのお下品さ丸出し、ブラックギャグを放ちながらも理屈は通った叙述が実に切れ味鋭いのだ。いわく、父親は「ヤクザもクビになった駄目親父」、自分のオリジン尼崎は「ヤンキーの国」、下妻一の流行の場所は「ジャスコ」と。尾崎豊とジャンボ尾崎、パーマンとパーマー、超ロンのツッパリなどのところでは、駄洒落だのオヤジギャグだのとスカしてないで笑ってほしい。
クライマックスに登場する牛久大仏は、町田康も描いていますね。よほど小説家をインスパイアする大仏なのだな。

  和田 啓
  評価:B
   極彩色を帯びた度のキツ過ぎるオープニングから一転、友情を称えた見事な青春小説に変奏していく。蛹だった少女が、羽を持った蝶に突然変異していくように。
 ロココって?真のロリータファッションとは?おじさんは困惑し頭が痛くなりました。代官山にあるメゾン、BABY,THE STARS SHINE BRIGHT本店が彼女の聖地。白いベビードールジャンスカに、小公女ブラウス、白い薔薇のケミカルレース付のミニハット。で靴はロッキンホースレリーナ…………なんのこっちゃ?対して盟友は、日の丸とU.S.ARMYの名が入った腕章をした特攻服(中は白いさらし!)、ボトムは鳶職が穿くニッカボッカで全身パープル。銀の重そうなメリケンナックルを指に嵌め、もちネックレスは金。で、素足に雪駄と地方色濃厚な爽やかヤンキー。
 で、ヤンさんがパーフェクトなロリータファッションを決めてくれるのです。パンクだ!