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本と中国と日本人と
本と中国と日本人と
【ちくま文庫】
高島俊男
定価 998円(税込)
2004/2
ISBN-4480039163

  岩井 麻衣子
  評価:C
   中国に関する書物について書きつづった書評エッセイ。もともとは中国関係の出版をしていた会社のPR紙「東方」に連載されていたのを抜粋、加筆訂正したものである。著者は、文庫化するにあたり、一般読者向けのものを選んだらしいが、一般といってもやはり少しでも中国に興味がなければ辛いだろう。親切にも語句の説明を載せてくれてはいるが、著者希望「読んで笑ってね」に到達するには、私ごときレベルでは無理らしい。しかし、読んでみたいなと思う本はあったので書評の役目は充分果たされている。また、本の紹介だけではなく、人物の背景にある歴史が盛り込まれていたり、日本語がおかしいとか文章についてかみついていたりで、勉強になる。紹介された本を読んでみて、また戻ってきたい一冊。そのときには「笑って」楽しめるようになっているかも。

  平野 敬三
  評価:B
   初めて読む高島さんの著作だが、少し読めばだいたいどんな人か分かる。これは、熱心なファンがつくわけである。中国にまったく興味のない私でもほとんど退屈せずに一気に名人芸の文章を堪能できた、と書ければいいのだろうが、それは嘘になるので正直に書けば、やはり中国ネタオンリーというのはきつい。それでも、この人のなんというか、本読みとしての姿勢が一貫していて読んでいて非常に気持ちがよい。中国に関する本の書評を集めた本という、非常に限定されたテーマでありながら、著者の魅力(であろうもの)がびしびし伝わってくる。中でも印象深かったのが、次の一文。「わたしはなんでもたんねんに事実を追っかけたものが好きだから、こういう本を見るとワクワクするのである」。丹念に事実を追っかけるなんていう、私からすれば退屈極まりない文章に胸をときめかせている高島さんはとてもチャーミングで、全篇、「そこでそういうふうに感動するか」という面白さにあふれている。

  藤本 有紀
  評価:A
   中国語専門家で本が大好きな著者による、中国に関する書籍のセレクション。各項に本のデータがついておりガイドとしての実用性も備えている。興味をそそる本があれば、マウスをチクチクやって出版状況も分かるし、あぁ便利。
中国語と一口にいっても、「而」いっぱいの漢文やら、ニーハオの北京語、香港の広東語、麻雀用語(和製?)なんていうのもあって広範だ。とても研究のしがいがありそう。漢文は返り点を付けて訓読するのがおなじみだけれど、和歌形式のひらがなにしたり、中国語のまま発音したり、様々の研究者が独自の方法を追求しているようだ。
辛口といわれる著者だが、辛口というと口のまがったおやじみたいなイメージでよろしくない。ややインパクトには欠けるが歯切れがいいといったほうが正確だと思う。印象に残るのは「調べれば分かるものです」、「星を見る軍人」、「漢文は玄界灘に捨ててきた」の項。ひとつ目で誤りをピリっと指摘し、ふたつ目の中国の戦場に「つはもの文庫」という図書館を作った軍人の話で読書人を涙させる。三つ目は教養人らしいユーモアに笑わせられる。オビで有名なちくま文庫は表紙もいいなあ、と唸っていたら南伸坊のデザインだった。

  和田 啓
  評価:B
   新刊時に玄人筋で評判だった本の文庫化である。筆者の高島俊男氏は中国文学通。日本人にゆかりのある中国関連の本を切れ味鮮やかに、自身のエピソードを適度に加えながら、文筆家としての力量もあますところなく伝えている。日本人が描いた書籍も多く紹介することで隣国の歴史と大きさが皮膚感覚で捉えられるようになっている。
 戦時中、祖父が満州で鉄道の仕事をしていた関係もあってか戦争の時代を取り上げた本が印象深かった。中でも先日亡くなった小林千登勢さんの『お星さまのレール』で、幼少期の彼女が三十八度線に向かって泣きながら走るシーンは秀逸の一言。
 漢詩とは漢字で綴った詩のことだが、英米文学とはまた違う種類の教養主義的な臭さが読後感に漂った。筆者の毒(独断と偏愛)は好みの分かれるところ。
というわたしも異国のチャイニーズレストランで菜譜を眺めるときは至福のひととき。