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ハードロマンチッカー
【ハルキ文庫】
グ・スーヨン
定価 714円(税込)
2004/3
ISBN-4758430926
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
岩井 麻衣子
評価:C
話題のCMを山ほど世に送りだしたかと思えば、作詞したり、映画とったり、いったい何が本業なのかわからんグ・スーヨン氏。そんな多才な彼の小説デビュー作である本書には山口県下関で育った在日韓国人グー少年の生活が描かれる。深刻度はそれぞれかなり違うが、岸和田少年愚連隊に限りなく透明に近いブルーを足して割ったような生活。むかしのオレを語る話ってどうしてこんなに似ているのだろう。彼らが特別なのではなく、あの頃の日本にはそんな生活をする人があふれていたのだろうか?けんかにあけくれる仲間たち、はびこるクスリ、狂気、体ばっかり成長したバカ女たちとの絡みなど目新しいことは何もない。しかし、まわりの世界に対し、こいつらとは違うんだというグー少年の冷めた眼差しや、繊細な心の動きがストレートに伝わってくる、小説というより日記のようなキレギレな文章に慣れれば、一気に読み進められる。在日問題とかをアピールするのではなく、ただそこにある事実を淡々と語る。
竹本 紗梨
評価:A
子どもは残酷だ。下関をぶらつく高校生やチンピラたち、北朝鮮籍の人間と韓国籍の人間にはモメごとも絶えない。学校にも行かず、腐りかけのアパートで、酒にクスリに女。人は死ぬし、家に火もつけられる。そんな現実を、おかしいと思ってもその世界からは出られない、そこで生きぬくのみ。納得できるルールだけを信じている。16才の少年から見た世界が、この本には書きつけられている。在日韓国人について、私はほとんど知らない。あとがきには「常に無知が問題を引き起こすから」と書かれていた。
平野 敬三
評価:A
いいないいなとつぶやきながら一気に読んだ。すごく気持ちのいい小説だ。下関に暮らす落ちこぼれの在日韓国人の青春をリズミカルな文体で描いた本書は、かなりの中毒性を持っている。いつのまにか物語に取り込まれている。ろくでもない日常は、どこまでいっても輝くことはないし、どうしようもない苛立ちやもやもやを抱えた登場人物たちに転機が訪れることもない。それでもこの小説はとてつもなくポジティブな熱をはらんでいるし、その熱が読み手にビシビシ伝わってくるのだ。作者は周到に能天気さを装いながら、どんどんと状況を悪化していく。そして全体を覆うトーンをどんよりグレーで貫きながら、そこにたびたび鮮烈なイメージを散りばめていくことで街の空気と臭いをどんどんと文面から立ち上げていくのである。生きているということは美しいし哀しいし面倒くさいし喜ばしいし、つまりなんだかよくわからないものだ。それを颯爽と描いた傑作である。死ぬほど笑えるし。
藤川 佳子
評価:B
下関に住む在日韓国人の悪ガキのお話です。金城一紀著『GO』も差別ということをポップなタッチで描いた印象がありますが、こちらは更に「差別? オレはとくにそーゆーことをシカメっ面して書きたいわけじゃないんだけどね」という態度が色濃い筆致で、自らのワルな青春時代を書き出しております。その斜めに構えた態度がどうも痛々しく思えてしまうのです。書くことで過去に折り合いをつけたいというような…、ふと頭にリハビリという言葉が浮かんでしまいました。
主人公のグーは、誰とも連まず、どこへでも飛べて、女を落とすテクニックも含めた人心掌握術にも長けている…。自分のマイノリティーを武器にしなくったって十分格好良く世の中でやっていけるよ、ケッ、とちょっとひがんでしまいます。だから評価が低くなったのかな? いやでも、ゴミみたいな世界でゴミにならないように生きる主人公の姿には心打たれました。
和田 啓
評価:C
在日韓国人二世が書いた福田和也先生絶賛の衝撃のデビュー作、なんだそうである。
主人公は下関に住む朝鮮人の高校生。結構ワルい。彼らの路上を中心とした日常が、手持ちカメラで撮られた8ミリ映画のブレた画像のように、躍動感溢れる筆致で描写されていく。
若くて金がなく、好奇心とエネルギーだけは旺盛な野郎たちにとっては、街を徘徊するのが最も健康的で、ダチと歩く街がこの世でたったひとつの世界である。この作品はやたらとセリフが多く、絶えず登場人物は動いている。自己の内面を考えることは稀にしかない。自分が動くことで世界は回っていくからだ。感傷を拒否した生き方が生彩を放ち、勤め人には新鮮。あれだけ体を張っていれば、世界は拓けるだろう。毎日たいへんだろうけど。