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マンハッタン狩猟クラブ
マンハッタン狩猟クラブ
【文春文庫】
ジョン・ソール
定価 840円(税込)
2004/3
ISBN-4167661594

  岩井 麻衣子
  評価:C
   地下鉄のホームで暴漢に襲われる女性を助けようとしたジェフはその暴漢に間違われ有罪になってしまう。刑務所に護送される彼を何者かが連れ出し、地下鉄のトンネルに拉致する。「地上にでることができたなら、おまえの勝利だ。さあ逃げろ!」ジェフを獲物とする狩りがマンハッタンの地下鉄トンネルではじまった。狩られるジェフの奮闘よりも、地下の世界の描写に力が入っているからか、人間狩りの話しにしては、手に汗にぎる感じが薄く、地下生活観察日記のようだ。普段何気なく利用する地下鉄。車内で窓に映る自分の容貌チェックをしても、その先にある闇の中までは決して観ようとはしない。それは、窓の外に何かがあるなんて、そんなことは考えたこともないからだ。街では様々なことがおこるが、たいてい人は見ないふりをする。「見て」しまった為にとんでもない目にあったジェフの姿をみると、見ないふりはいけないと思っても、やっぱり知らん顔のほうがいいのかと何だか悩んでしまうのだ。

  斉藤 明暢
  評価:A
   この作品はジャンルで言うとサスペンスなのか、あるいはホラーなのだろうか。
 個人的な怒りや正義を思う気持ち、あるいは自分の好き嫌いや単なる楽しみを動機に、「社会の害にしかならないクズ」と認定された人が、圧倒的に不利な状況で駆り立てられ、追いつめられて殺されていく。その中には本物の凶悪な犯罪者もいれば、そうでない人もいる。もっともそれは狩る側からすれば、どっちでも良いのだ。楽しいんだから。
 冤罪で人生を破壊されることも、突然犯罪の被害にあうことも、地下の世界で追いつめられる恐怖も恐ろしいが、何より恐ろしいのは、本当にこんなことが行われているのではないか?という感覚だ。
 そして、自分はそのどちら側に近い人間なのだろうか。多分、どちらにでもなれるんだろうと思う。状況と、些細なきっかけさえあれば。

  竹本 紗梨
  評価:B
   マンハッタンの地下には、あらゆる配管や地下鉄、工事中の現場に、忘れ去られた場所があり、誰一人その正確な詳細図を知らない。そんな地下鉄に放り込まれ、暗闇の中で命を狙われながら、地上を目指す…それが、無実の罪でつかまったジェフに対する最後のゲームのルールだった。吐き気がするほど生々しい地下の描写、そこで倒れた人間が、ネズミや虫によってどんな姿にされるのか、想像したくないシーンがどこまでも続く。そんなゲームの主催者とは?ジェフの目に見える仲間は異常殺人鬼の男だけ。薄気味悪く手放してしまいたいのに、高い構成力と恐ろしいほどのスピードに惹かれて最後まで読み進んでしまう。