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マインドスター・ライジング
マインドスター・ライジング(上・下)
【創元SF文庫】
ピーター・F・ハミルトン
定価 (各)819円(税込)
2004/2
ISBN-4488719015
ISBN-4488719023
(上)
(下)

  岩井 麻衣子
  評価:B
   元軍人で体に埋め込まれた人工腺により、人の感情を読みとれる、「人間嘘発見器(超感覚者)」のグレッグ。大企業の令嬢で17歳、脳に記憶配列装置を埋め込んだ「人間スーパーコンピューター(なのか?)」ジュリア。もはや「ホモ・サピエンス」とは呼びがたい二人が大活躍する一冊である。本書が発表された1992年からネットの世界は様変わりしてしまい、やや古くさい感じはするが、当時ではつかみきれなかったかもしれない世界が、その分イメージしやすくなっている。何よりキャラクターが人間臭くて楽しめる。超感覚をいかして女を引っかけるグレッグ。女の心が感じとれるのだから、やりたい放題である。一方ジュリアはその能力で全ての事象を分析・把握できる恐ろしい少女なのに、男にもてる為に髪を伸ばしたり、友達の情事をのぞき見たり(しかも脳に保存)、ただの子供である。とどめは超ホモサピエンスともいうべき彼らのあまりにも自己中心的、「正義は勝つ!」と叫んでいそうな結末。ジュリアさん、それは犯罪では……。

  斉藤 明暢
  評価:B
   最近のSFやファンタジーを読んでよく思うのは、「主人公が強すぎる」とか「ちょっとやりすぎ」ということだ。カタルシスを感じるためには、痛快に勝つことが必要なときもあるのだが、あまりに圧倒的なことが多い。そりゃあ圧倒的な強さというのはカッコいいけど、際限なく強く激しい敵との応酬(インフレ効果と言うらしい)になりやすいのだ。
 その点、本作はちょうどいい感じに強く、それなりに隙のある主人公達が登場する。人工的に強化された部隊出身のサイキックなのだが、万能ではない。意外とあっさりと拘束されてしまったりするのだ。
 舞台は共産主義っぽい政権が崩壊した後の英国だが、外国で何が起きていようとここにはここのルールがある、みたいなのはヨーロッパ気質なんだろうか。
 ちょっと残念なのは、ヒロインらしき立場である主人公の恋人の存在感が、もう一つ薄いことだ。シリーズが進むにつれて存在感を増すのかもしれないが、今回は金持ち娘の勝ちだと思う。