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コールドマウンテン
コールドマウンテン(上・下)
【新潮文庫】
チャールズ・フレイジャー
定価 660円(税込)
2004/2
ISBN-4102029117
ISBN-4102029125
(上)
(下)

  岩井 麻衣子
  評価:A
   出征したインマンが恋人エイダのまつ故郷コールドマウンテンへ決死の覚悟で戻る愛の物語……ではなく、実はサバイバルな物語である本書。すばらしい作品である。物語は、インマンが故郷へ戻る道で出会う人々との交流を描いた「インマン編」と、現代だったら米を洗剤で洗ったに違いない深窓の令嬢エイダが生きる力を学ぶ「エイダ編」が交互に語られる。霞を食って生きていたエイダが、同居人ルビーに仕込まれどんどんたくましくなっていく姿が圧巻である。都会のニオイのする女の美しい姿形に惚れた男と、身近にいなかった田舎の男の膝になんとなく座ってしまった女が戦争により離ればなれになり、共に成長をし、再び出会ったとき、お互いを認めまた惹かれあうのか、どきどきの展開である。実体のないものより大地を踏みしめるぶっとい足が大切だと物語が叫んでいるような気がした。著者は本作品に7年もの歳月をかけたらしい。時間により熟成された価値ある一冊。

  藤川 佳子
  評価:A
   深窓の令嬢エイダと、私の頭の中ではすっかりジュード・ロウになってしまった脱走兵インマンの悲恋物語。恋人の待つ故郷へ帰るインマンの旅と故郷で彼の帰りを待つエイダの物語が交互に語られます。
インマンは旅の途中で訪れる様々な出会いによって、エイダは頼りになるパートナー・ルビーと生活を立て直していくことで、お互いの心にある相手に対する不確かな想いを確実なものへと変えていきます。恋人同士と呼ぶにはあまりにもクールで淡い関係、好きとか愛しているなんて言葉は一切出てこないからこそ、離ればなれの4年間で募らせてゆく想いが心を打ちます。
南北戦争のことを知っていれば、もう少し違った見方が出来たのかも知れませんが、いかんせんモノを知らないもので…。

  藤本 有紀
  評価:B
   南北戦争に倦んだ心身を引きずるインマンが戦場を離脱し故郷コールドマウンテンを目指す。そこには、恋人というにははかなすぎる思い出しかないものの、もう一度一目会いたいと願う女・エイダがいる。エイダもインマンを待っている。
少々過剰にヒロイックなインマンの旅の過酷さ、物憂いエイダが頼りになる野生の女ルビーの手を借りて徐々に自活していく過程、共に十分ドラマの要素はあるのにやや盛り上がりに欠ける。この小説のいいところは、抱擁のスタイルは数あれど女の背後から男が抱きしめるという図が、インマンとエイダの場合絵になっているという一点に尽きるのではないだろうか。小説や映画の中以外ではあまり目撃したくない体勢だけど。
現代に至るまでのアメリカ人の歩み、みたいな部分が、83年全米図書賞受賞作『カラー・パープル』と重なるように感じた。歴史的研究は同賞の選考基準なのか? ラブストーリーとしてはキンケイドとフランチェスカさんの有名な物話のほうが好き。ドラマとして弱い分、歴史物語として丁寧さを感じる。