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勝手に目利き
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ファミリーレストラン
ファミリーレストラン
【集英社】
前川麻子
定価1,680円(税込)
2004/4
ISBN-4087746909
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  川合 泉
  評価:B+
   新しいお父さんに、血の繋がらない兄。他人どうしでありながら、家族というつながりを持つ桃井、和美、一郎、公子。この家族の中で揺れ動く公子の内面を中心に、物語は展開していく。七歳から三十二歳に至るまでの公子の内面が丁寧に描写されているので、読後、まるで公子という実在の人物の人生を覗き見してしまったような感覚に襲われた。血のつながりのある家族と、そうでない家族では基盤に大きな違いがある。前者では自然に行われていることが、後者では基盤を維持するために常に全員が踏ん張っていなければならない。その代わり、後者では家族意識がより深まっていくのではないかと感じた。 
登場人物では、娘のボーイフレンドとも友達になれてしまう、母親らしくないけれど自由奔放に生きている和美のような生き方がかなり羨ましい。レモンイエロー地にJUNICHIのポップなイラストという表紙もかなり好みでした。

 
  桑島 まさき
  評価:A
   感覚的にピッタリの言葉、飾り気のない表現を巧く紡ぎながら、示唆に富んだ文章で人を感動させる力量のある作家だ。
〈公子〉と〈和美〉という母娘の視点で交互に描かれていく。小さかった〈キミコ〉が、家族構成の変化と共に自身も成長し〈公子〉になり、少女から大人へ、大人の階段を登る時期の少女の危うい感情が繊細なタッチで描かれる。一方、母親である〈和美〉は、再婚して義理の息子となる一郎に対するまぶしい想いや、再婚相手である桃井が娘の公子に対する想いに嫉妬を覚えたりと、女特有のドロドロした感情を抱いたりして忙しい。紙の上では家族であっても一つ屋根の下で血の繋がらない男女が暮らすことの困難さをさりげなく描く。しかしそこには悲壮感はない。筆者は情緒的にならずに2人の「女」の胸中を丁寧に綴っていく。そのあざとさのない素直さに惹かれた。とりわけ公子が義理の兄に寄せる胸がキュンとなるような想いは切ない。
 和美のキャラが強烈で、家族小説、少女の成長物語、だけでなく母と娘の関係性についても考察できる小説だ。

 
  藤井 貴志
  評価:A
   「母親」和美の三度目の再婚相手である「2人目の(実は3人目なのだが)父親」桃井と暮らし始めた「わたし」公子。公子が中学生になったとき、桃井の甥で天蓋孤独の身となった高校生の「兄」一郎が家族に加わる。寄せ集めのような4人の人間がともに暮らす20年間におよぶ日々を描いたのが本作だ。
家族以外の登場人物はほとんど出てこない。これが重松清氏の作品であれば、それはもう波乱万丈に描かれるだろう(?)が、本作にはそうしたイベントはほとんどない。学校でのいじめも仕事のごたごたもない。4人の家族が、ひたすらに自分と向かい合い、他の3人の「家族」を受け止めようする。確かに大きなイベント性には欠けるが、退屈させられることはまったくなかった。むしろ、各登場人物の気持ちの揺れ動きをじっと見つめることで、4人の個性はもちろん、この「家族」の絆の強さを浮き立たせることができている。子供が家を出るとき、普通の家族なら独り立ちを喜ぶが、この「家族」では家を出ることは「家族をやめる」ことを意味する。血縁のない人々を「家族」とし描くことで、著者は「ほんとうの家族って何?」を描こうとしているのだろう。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   20年たてば家族という集団は集合から離散までのそこそこを体験するモノだけれど、この桃井家の家族はそもそも血の繋がりが薄い家族なので出会いと別れにより大きい意味があるようです。
 公子という女の子と、母親の和美。この二人の視点で綴られた日常が連作短編集としてまとめられています。
 登場人物はきちんと年をとっていって、新しいお父さんが来たり。お兄さんが出来たり、恋をしたり結婚をしたり、そして死と向き合ったり。
 一つ一つが実は大きなニュースばかりなのに、それらが日常の一場面として淡々と絵日記のように綴られていくところもいいところ。毎日に起こることって当事者にとってはドラマチックだけど大袈裟なモノではないんですよね。でもその中でのちょっとした仕種が読み手の心を打ちます。出てくる人々にも悪人がいなくてとても気持ちの良い小説でした。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   共感できるところもあるし、共感できないところもある。もちろんどんな小説を読んでいてもこのように感じるものだと思うが、突飛な設定なのに不思議とリアルな感じがして、心に引っかかる物語だった。
 なんというかこう、すごく作者自身が「女」であることを意識させられる小説だった。この連作短編集の主人公たちの家庭においてもしばしば、母と娘は「女子」、母の再々婚相手とその甥(養子として引き取られてくる。この設定だけでもかなり濃い)は「男子」と呼ばれる。「女子」には前へ前へな役割、「男子」にはそれを受け止める役割が振られる。この大まか過ぎる役割分担だけみると、女子チーム優勢といった感じだが、読み終わってみると兄(甥のことですね)の清々しさが妙に印象に残っていたりする。
 うーん、作者の前川さんは私と同じ歳みたいだけどなあ。まだまだ現役!なのねー。

 
  松田 美樹
  評価:AA
   北村薫さんは「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います」と書いていますが、私はこの本で2回の人生を送ることが出来ました。1つ目は、3回の結婚をし、最後まで家族とは何か?と考え続けた和美。2つ目は、和美の娘で、複雑な家庭環境が故に家族の繋がりについて考えざるを得なくなり、人生をも大きく影響された公子。和美が32歳から50歳になるまで、公子が7歳から33歳になるまでが書かれています。彼女たちそれぞれを一人称にして、時間の流れを追った章が交互に組まれた構成がいい。和美の気持ち、公子の気持ちをそれぞれに辿りながら、家族って何だろう?、家族になって人生を共にする、一緒に暮らすとはどういうことかと考ることができます。ただ血の繋がりがあるから家族をやっているんではない、その繋がりの危うさや切なさ、美しさに心がきゅうっとなりました。
 和美が義理の息子と娘の彼氏相手に話すセックスの講義は秀逸。照れながらも、中年女性が正直に話す女の性についての講義は、全ての男性に読んでほしいところ。まだまだ今年は残り半分以上ありますが、これは2004年1番の作品です!

 
  三浦 英崇
  評価:B
   食卓を囲んでいても、父母と話をすることがほとんどない私にとって、家族とは「惰性で一緒に暮らしているだけの血縁」以上のものでは無いです。断絶するのにかかる精神的負担を考えたら、まあ、一緒にいる方がまだしも疲れないかな、くらいの。
 そんな私から見たこの一家のあり方は、異世界の出来事、ファンタジーとしか思えません。意志の力で「家族」としての結びつきを維持し続けた、他人同士である彼らの二十年間。血が繋がっていてさえ、今ではロクに意思疎通もかなわないのに、彼らは実にうまく、複雑で濃厚な人間関係をこなしていっているように見えます。本の中の彼らの方が、私なんかよりよっぽど真剣に家族を営んでいます。
 自分の現状と照らし合わせて読んだ時、気が滅入りそうになりました。それだけ、作品の出来が良いってことですね。こんなにいい話を読んで落ち込んでどうするんだ。うーん。