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世界のすべての七月
世界のすべての七月
【文藝春秋】
ティム・オブライエン
定価 2,199円(税込)
2004/3
ISBN-4163226907
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  桑島 まさき
  評価:B
   人気小説家、村上春樹の飾り気のない翻訳が効いていて実に読みやすい。何よりの魅力は、若者たちの反体制運動が過激だった60年代アメリカの時代の匂いがプンプン立ちのぼってくる点だ。
 ある大学の同窓会が卒業後30年ぶりに開催された。〈政治の季節〉を生きたかつての若者たちは今や50歳を越え、価値観も変わり、人生に折り合いをつけている。そこへ集う人々の物語が、同窓会の流れと共に語られる。ベトナムへ行ったために不自由な足になった男、行かなかった男、恋人を裏切った女、裏切られた男、2人の夫の間を奔放に行き来する女、などなど。それぞれの物語が独立した小説として成立するほど面白い。
 彼らには確かに若い日、〈物語〉があった。そして、現在も違う〈物語〉がある。過去を布石として。再会を機に過去の物語が終息するのかと思うと、又新たな展開をみせたりするのがありきたりでなくてイイ。50歳を過ぎたら迷わないなんて、嘘! 人生は死ぬまで波乱に満ちているものなのだ。彼らよりひと世代下の私であるが充分に共感できた。

 
  藤井 貴志
  評価:C
   祭りに参加するのは大好きだ。何もかも忘れてボルテージを高め、一気に爆発させて盛り上がれる。でも、祭りのあとはいつも喪失感に襲われる。あの感覚は何だろう……。本書を読みながらそんな事を考えた。
1969年に大学を卒業した男女が卒業30年目の同窓会に集まる。思い出話に花を咲かせつつも、青春時代を思い返しあちらこちらでモーションを掛け合う男女。いつまでもお盛んである。しかし、いまは1969年ではない。かつてのヤンキーボーイ&ガールも今では初老の域に達し、精神的にも肉体的にも衰えている。家族や社会的地位を背負ってもいる。すでに命を全うした同級生もいる。そして誰もが「これが最後の同窓会になるかも」と感じている。そして会が終わりを迎えていく……。
祭りの終わりは死を暗示している。思えば修学旅行の帰り道で交わされる「楽しかったねぇ」という会話も、どこか死者を弔う会話に似ている。きっと祭りには「命」があるのだろう。自らの死をどこかで意識している人たちの祭りという本書の設定が、そのことを強く感じさせる。若さをアピールしようとする登場人物たちの姿も、身近にある「老い」や「死」を連想させる。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   ティム・オブライエンの小説を村上春樹が訳しています。30年後の同窓会で会った卒業生たちを取り巻くその日と、そこまでの日々の物語。
 以前読んだ『やんぐとれいん』との比較をしてみると非常に興味深いです。同窓会という括りで見て比べてみるとこちらで描かれている性欲や感情の方がずっと生々しく赤裸々なのですよ。もちろん国も卒業からの年数も作者の作風も全然違うので比べること自体がナンセンスなのかもしれませんけど…年をとって最後の恋をしたいということなのか、時効を迎える昔の恋が増えていくということなのか?うーん、面白いですねぇ。
 日本の同時代作家さんたちにも30年後の同窓会物語を書いていただいてぜひとももう少し比べてみたいところ。
 古き良きアメリカものが好きな人にはオススメしたい1冊。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   前々回の課題図書「やんぐとれいん」に続き、個人的に好みの“同窓会もの”。それにしても「やんぐとれいん」の登場人物たちと20歳の差があるとは思えないエネルギッシュさ。私などよりよほど現役感あり。何ひとつあきらめていないのでは、という感じだ。
 翻訳者だからというのでもないが、村上春樹さんの短編集「回転木馬のデッドヒート」に収められた“35歳で人生の折り返し地点を過ぎた男”の話を思い出した。つまり人生を70年と想定し、残りの人生をある種の覚悟をもって、そのうえで有意義に過ごそうというわけだ。私も2年前35歳になった。が、「70よりはもうちょっと長く生きられるんじゃないかな…」と折り返し点通過のことはうやむやにしている。
 しかし、「世界のすべての七月」の登場人物たちの中にはそんなことを考える人はひとりもいないと思う。「まだ折り返し点はきていない」と思う人さえいそうだ。もちろん、それぞれに悩みやトラブルを抱えているし、すでに死者となってしまった同級生もいる。でも生きていく、というメッセージがストレートに伝わってくる気がする。そう、人間強くならなければね。

 
  三浦 英崇
  評価:C
   以前、ここの書評の課題図書になった「やんぐとれいん」(西田俊也)の「18きっぷであてのない旅をする同窓会」なら参加してもいいけど、この作品みたいな同窓会には絶対「不参加」に大きな○付けて返事出しますね。
 「30年前は若かったなあ……」と、取り返しのつかない時を振り返りながら、あの頃の若さを無理やり演出しようとする登場人物たち。正直、見ていてあまり気分のいいものではありません。
 同窓会風景の合間合間に挟まれる過去の回想が、どんなに苦い悔恨に終わっていたとしても、そこに「生きよう」という意志が満ち溢れていて、まだしも救いがあるだけに、30年後の老残の姿は、見るに耐えないです。
 でも、この嫌悪感ってのは、つまるところ、いつか自分も同じような醜態を示してしまうのではないか、ということに発してるんだろうなあ。時はあまりに残酷です。多少なりとも「明日」に期待できる、人生の黄昏を見い出したいものです。