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憑かれた旅人
【新潮社】
バリー・ユアグロー
定価 1,890円(税込)
2004/3
ISBN-4105334026
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
川合 泉
評価:C
「あんた誰かね?」「旅人です」「どこから来た?」「この前の場所から」「どこへ行く?」「この次の場所へ」。謎かけのようなこの冒頭が、一気に興味を惹き付ける。流浪の旅人「私」は、時には小さな村に、時には孤島へと旅を続ける。一編が2、3ページと短いので、次から次へと「私」と一緒に、読者も色々なところへ出没することができる。ただずっと同じようなテンションで物語が語られていくので、中盤からややダレてきた。
「人生は旅のようなものだ」とはよく言いますが、中年男である「私」の旅の軌跡は、まさに人生そのもの。旅とは一体、どのように始まり、どのように終わってゆくのか…。是非あなたの目で、旅の終わりを確かめてみて下さい。
古幡 瑞穂
評価:B-
子ども心にはガリバーが小人の国へ行ったり馬の国へ行ったりするのもインパクトが強かったけど、この旅人はそんなの目じゃないような奇天烈な体験ばかりをしています。旅に出るような人はなんとなくタフなイメージを持っていたんだけれども、この旅人がやたらぱっとしないんですよ。しかも時々作者自身を思わせるような話が挟まったりしていてそれがまた自虐的な面白さを醸し出しています。
まるで夢の中にいるような時間が続くのですが、どちらかというとずっと目が覚めない悪夢を見ているようです。王女様と知り合ったと思ったら首を切られちゃったり、幽霊になっていたり…読んでいるには奇想天外で面白いけど自分で見るにはイヤな夢だなぁ。嫌いじゃないんだけど最近“奇天烈な話”が続いて食傷気味だったのであんまり感動できなかったのが残念でした。
松井 ゆかり
評価:C
人生を変えた本、というものがみなさんの人生には存在しただろうか。私には何冊かある。その中の一冊にめぐり会ったのは中学2年生の冬休みだった。
親しくしていた数名の中のひとりが提案して、「この冬休みは、自分の持っている本を貸し借りして読書三昧!」ということになった。本好きの私に異論のあろうはずはなく、いそいそと自分の蔵書リストを作って学校へ持って行った覚えがある。そのとき強力に薦められたのが、星新一「ボッコちゃん」だった。全編読み終えたとき(いや、最初の一編だけでも十分過ぎるほどだったが)の衝撃は忘れられない。世の中にはこんな本があるのか!もし「ボッコちゃん」と出会わなかったら、自分は新刊採点の仕事をさせてもらいたいと願うような本好きにはならなかったかもしれない。
「ボッコちゃん」の話が長引いてしまった。以上のような理由により、個人的な基準としてショートショート(あるいは超短編)には「オチがあるもの」と刷り込まれてしまっている。しかし、ユアグロー氏の作品にはオチがない(私の感覚で“これは「オチている」と考えてもいい”と思ったのは「会話」という一編のみだった)。もちろん、それこそがユアグロー氏の作品の魅力であることは私も否定しない(そんな大それたことはそもそもできない)。私などより柔軟な心をお持ちの方は、不思議な味わいのある小説世界をご堪能になれることと思う。
三浦 英崇
評価:C
人が見た夢って、当人にとっては結構重要なのかもしれないけど、聞かされる方にとっては「はいはいそうですか」と軽く受け流せる程度の話になっちゃうことが多いですよね。それは、たいがいの夢はストーリーの辻褄はあってないし、オチがなく、投げっぱなしだからなのでしょう。
この作品、何ら説明もなく2ページ程度の短編がぞろぞろ並べられているんですが、出てくる話がことごとく「夢」っぽいんです。それも、見たまま書いて終わり、な、夢についての作文に陥らず、唐突で不条理で、時にいきなり断絶してしまったりする「夢」の文法を、技巧として使っている節があります。
一歩間違えると、退屈極まりなくなるところですが、その技芸が買えるので、単なる「夢」語りとは一味も二味も違う読後感になっています。とは言え、夢に「憑かれ」過ぎると健康を害するので、読後はぐっすり夢も見ずに寝る方が良いかと。おやすみなさい。