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容姿の時代

容姿の時代
【幻冬舎文庫】
酒井順子
定価 520
円(税込)
2004/4
ISBN-4344405056


  岩井 麻衣子
  評価:C
   季節ごとに、ブームの洋服・メイクが出現し、多くの人々を慌てさせる時代。心がきれいだったら外見は関係ないなんていっても、冷静に考えると何より外見が重要だろうという著者はこれを容姿の時代とし、現代において人々は「見かけ」の奴隷となっていると指摘。本書は、OL、ヤンキー、おたくなどの洋服について語る「着衣編」と、化粧、整形、足などについて語る「脱衣編」の2編からなる。バーゲンに走ったり、まつげが10倍に伸びるマスカラを血眼になって買い求める人々を見ていると、なるほど奴隷だなあと思う。そんなに外見を気にしなくてもと思うのだが、本書でいうところの「おたく(風呂には入ります)」系でオンナ力の低い私にはそんなことをいう資格なんて全くないだろう。著者は自分も同じ奴隷だと言っているが、どこか「ほかの人とは違うのよ」という高飛車な感じが文章に漂う。著者の独断と偏見が大好きなファンのためのエッセイ集。

  斉藤 明暢
  評価:B
   近頃では、ミもフタもない話を聞かされるのも珍しくないが、この人のはなかなか強烈というか、じわじわと効いてくる重く避けようのない真実のボディーブローみたいな感じがする。リアルタイムで悩んでる人には、耐えられないものがあるかもしれない。
 人は見た目を大いに重視するし、自分の外見を上手く使える人は下手な人よりもずっと得をする、というのはこの世の真実なのだろう。かくいう私も、人の声質で性格は大体わかる(少なくとも気持ちよくつき合える相手かはすぐわかる)と密かに主張しているのだ。まあそれはどうでもいいけど。
 とにかく、こういうミもフタもない話を嫌みなく楽しく正直に語れる人というのは、すごく貴重だと思う。そんな話をしてしまう人というのは、たいてい中立ではいられない、と言うより自分もいいほうに入っているのだという事を言外に匂わせたいと思うあまり、つい言葉にしてしまっているからだ。
 ……反省しないとなあ。

  竹本 紗梨
  評価:B
   白状すると酒井順子はかなり好きな作家だ。世間で負け犬論争が巻き起こった時も、「そんなに目くじらたてなくても」と思っていた。だって酒井順子の冷静な観察眼と絶妙な自己分析には、余分で過剰なものはないもの。そりゃ、細かい!と思うけれど、女の子ならみんなそんなものだ。それにみんながこう思っている、っていうことを伝えてくれる安心感はもう不動のものとして、この人の線引きには、ハッとさせられることが多い。進んでマネージャーをするタイプの女の子と、それを斜めに見ちゃう女の子はおんなじ種族じゃないって切り分けちゃう。この人はそこで、自分とは違う方、線の向こう側にいる人のことも、じっくり観察しているのだ。あずき色に白いレースのブラをつける人の謎とか、計算し尽くされた賢さとか。それだけじっくり、そんなとこまでってくらい細かいことを見ながら、嫌味にならないギリギリのラインにいる貴重な作家。何冊読んでも、やっぱり飽きない。この人の視線の切り口はきっと無数にあるんだろう。

  平野 敬三
  評価:D
   目新しい見解がひとつもない。エッセイとしてこれは致命的だ。なんでこれを本にできたのか、いくら考えても謎である。思えば、学生時代、特定の友人たちとはここに書かれているような人間ウォッチングを飽きることなくやっていた。コンパでも輪には入らずにそこでの人間模様を眺めて毒づいて爆笑しているような(当然、周囲からはひんしゅくを買っていたが)人たちが学食堂に集まって、だらだらと観察結果をネタに一日中ガハハハ笑い合っていたのである。だから、本書を読んで「ほんとほんと」と思うことはあっても、でも別にそれをもっと何倍もおかしく話せる友達いるし、なんてことも思ってしまう。特に書いてあることに異論があるわけではないが、というよりいちいち共感したりするのだが、エッセイは観察眼だけでは駄目なのだろう。まああの松尾スズキでさえ、まったく笑えないエッセイを書いてしまうこともあるのだから、なかなかに難しい分野ではある。

  藤川 佳子
  評価:B
   「容姿の時代」というタイトルにとても惹かれて手に取ったのですが、中身がちょっと想像と違っていたので期待はずれの感があり、評価が低くなってしまいました。
 バブル時代に青春を過ごした中年女性が、“外見”にまつわるキーワードを思うがままに挙げ、それについてブツブツと独りごとを言っている本…、というかんじでしょうか。全体的にどうもセピア色なんです。若い頃は自分がこう見られたいというメッセージをうまく世間に知らしめることが出来た、でも年を取ると自分のメッセージと世間の間にズレが生じてくるようだ、周りの友人は歳とともにだんだんとズレ始めてきた、でも私はまだ大丈夫だよね、というメッセージが根底にあるようで、そこに“もののあはれ”をかんじてしまうのでした。

  藤本 有紀
  評価:B
   『負け犬の遠吠え』で人気に火のついた酒井順子の売れっ子ぶりは、書店で酒井本が集合していたり、30台・女・どうする型の類型本が『負け犬』の周りに並んでいたりするのを見ればよく分かるというもの。本書は著者自身「かなしみ三部作」と銘打つ看板作品の一冊であるから、このブームを押さえておきたい人にも絶好の書であろう。
 この本では、外国人ならアピアランスというであろう「容姿」が題材とされている。「外資系ではアピアランスが重要視されます。」といった場合のアピアランスは、ビジネスマンが爪にマニキュアを施したり太り過ぎないよう有酸素運動を欠かさないことなどとともに、一般に人の見てくれを指す用語であるが、本書における「容姿」とはプラスチックの植木鉢から田中角栄の田舎くささ、OLファッションから乳首の問題までを指す。身近だが普通あまり意識しない事象が俎板の上で料理される。言い得て妙な叙述に笑い、同意しながら、反論を引き起こすスキも用意されている。目次を見て「これには一家言あり」と思う項目がある人は、頭の中が朝まで生テレビさながら侃侃諤諤の議論を始めてしまう恐れがあるので、覚悟のうえ読むべし。

  和田 啓
  評価:B
   酒井順子とはかれこれ20年近いつきあいになる。マガジンハウスの雑誌で女子大生コラムニストとして売れっ子でした。Gulliverの「女ひとり楽園のタヒチ」という記事を覚えています。その後、よき伴侶を迎えることができたのでしょうか?
 要は見た目が大事っていうか、見てくれはなんだかんだいっても否定できないネという事実をハッキリと主張した本です。関係ない人には全くどうでもいい内容なんだけど、都市部に住んでいて学校が付属上がりで小金持ちの階級の女性にはたまらなく面白いものだと思う。彼女は人を細分化して分類するのが好きだ。やめられない止らない。分類とは、差別という優劣意識に行当る。それはあなたでありわたしの姿だ。
 様式美が緊縛の色気に化ける刹那や、「足」についてのエッセイで女性靴売場の男性店員の湿り気について描いた部分が出色。恥や妬み、優越意識といったどうしようもできない性って、フェチだとかエクスタシーといった性的なメタファーと通底している気がします。